なないろ。-short stories-




そんな空を覆い尽くすように巨大な花火が炸裂した。手を伸ばせば届きそうなほどの近さで、視界いっぱいに広がった光の華の美しさにに思わず言葉を失ってしまう。

「心結」

「ひゃっ、な、なに、?」

いきなり耳元で名前を呼ばれ肩が跳ね上がる。

「俺さ、こうして心結の隣にいられるのほんとに奇跡だと思う」

至近距離で囁かれて花火を見るのを忘れてしまうくらいに彼の存在を近くに感じて。
 
「どうしたら心結を笑顔にできるかな、どうしたら俺のこともっと好きになってくれるかなって頭の中はいつも心結でいっぱい」

こうやって “ 心結 “ って名前を呼ぶ掠れ気味の甘い声に私はとても弱くて。
心拍数はすぐに走ったあとみたいに上がって、顔に熱が集まってくる。

「私だってっ、頭の中いっつも駆くんのことだけだよ。少しいじわるだけどほんとは優しいところも、私をリードしてくれることも全部…っ…」

「全部、何?」

そうやって答えがわかってるのに、わざと言わせようとしてくるところさえ愛しいと思う。

「いじわる…わかってるくせに」

「そんな俺のことが?」

「っ、だいすき」

かわいすぎって言って頭を撫でてくる彼の笑顔が眩しくて。

「心結、もっかい言って」

欲しがりな君はこうやって私に何度も言わせようとしてくる。

「駆くんのこと、だいすきだよ」

「…もう一回」

「駆くんからも、言ってくれなきゃやだ、」

せめてもの抵抗でそう言った。

「え〜、どうしようかなぁ〜」

そう言っても最後にはちゃんとわがままを聞いてくれるのが、私の彼氏。

「心結、愛してるよ」

甘い言葉とともに降ってきたのは、どこまでも優しい口付け。
そんな私たちを包み込むように咲いた花火の光を瞼の裏で感じながら。

“ どうかこのまま、時間が止まってくれますように ”

そんな子供じみた願いを、夏の香りに託した。


 Fin.






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