約束
「その幽霊見ちゃったらどうなるの?あの世に連れていかれちゃう?」


両手を祈るように固く握り締め、前のめりで沙耶子が聞く。


小柄な体が、今にも風に飛ばされてしまいそうに頼りない。


「連れていかれるかどうかは知らないけどさ、その一年男子は驚いた時に荷物にぶつかって、利き手打撲したんだって」


「えぇ……奈々未ちゃんのせいでもう旧校舎近付けないよぅ」


「私部活で絵描きに行かなきゃ行けないのに……」


私と沙耶子がそれぞれ口にした泣き言に、奈々未はご愁傷さまと言って笑う。


奈々未は飄々としてるから、こういう話は怖くないみたい。


お日様の匂いがする風に攫われた髪を、細い指先で耳に掛けて、私たちの反応を楽しむようにベンチテーブルで足をぶらつかせた。


泣きそうになる沙耶子を宥めているうちにチャイムが鳴る。


教室の窓から顔を出した先生が、早く校舎入れと怖い顔をしたから、私たちは首を竦めて足早に教室に入った。
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