約束
「皐月……?」


恐る恐る目を開けると、薄暗がりにぼんやりと浮き上がった顔に見覚えがある。


「美里先生……」


ぽつり、と漏らせば、先生は額に手をやり、目を閉じて長い溜息を吐いた。


「なんでこんなところにいるんだ」


「絵、描きにきたんです。いつもそこの窓から見える景色を描いてるから」


「そうか……」


先生は両手で擦るように顔を覆い、もう一度そうか、と溜息と一緒に吐き出した。


私が先生に驚いたように、先生も私を見て幽霊だと思ったのかもしれない。


むしろ私の方が噂の女生徒に姿形は近いわけで、ほんの少しだけ申し訳なく感じる。


「先生こそ、なんで旧校舎なんかに?」


美里先生は数学教師だ。誰かに頼まれない限り、旧校舎に近づく理由はない。


「……ある人に会いたくて」


先生は近くの机に腰かけ、力を抜いて足の間に置いた手を見つめながら答えた。


「それって……」


「噂話があるだろう。誰もいない旧校舎の美術室には、女生徒の幽霊が出る──俺の高校の時の同級生に会えるかもしれないと思った」
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