約束
とん、と胸を突かれたような衝撃だった。


先生はわざわざここに来たのだ。


そしてそれが示すのは、彼女がこの世の人ではないということだった。


私は途端に胸が切なくなって、先生にバレないようにそっと胸元を握り締めた。


余程情のある人だったのだろう。


そうでなければ、10年も前の人を気にかけはしない。


「どんな人だったんですか……?」


「いつもここで絵を描いていた。俺はその絵が好きで、卒業式の前の日も、完成した絵を貰う約束をしてた」


でも、その約束は永遠に果たされなかった。


女生徒は交通事故で帰らぬ人となり、結局約束の絵も見つからなかった。


「綺麗で、強くて、弱い人だった。少なくとも、守ってやりたいと思うほどには」


その声は、人として守ってあげたいというより、壊れないように傷つかないように、その人の傍にいたかったと言っているように聞こえた。


「……好きだったんですね、その人のこと」


先生は何も答えなかった。


その代わり、顔を上げ私を見つめると、とても優しくて寂しい顔で笑った。


刹那、身体中に閃光が走るような感覚が私を包んだ。


知っている。


私は、彼の愛おしさを湛えたあの表情を知っている。


前にも彼は、あの表情で笑ったはずだ。


いつか、どこかで──
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