約束
それが遠い記憶だと気がついた時、私の頭の中を、鮮やかな思い出が駆け巡った。


まだ未熟で淡い恋心を抱いていた10年前のあの頃。


お別れの餞別に、と約束した1枚の絵。


明日で最後だと笑った彼の瞳に映っていたのは、


「私……?」


あぁ、彼はここで、私を待っていたのだ。


ずっと違和感に気づかない振りをしていた。


奈々未や沙耶子と、目が合わないこと。


誰もいない旧校舎の美術室で、ずっと描きかけの絵を描いていること。


霞がかかったように昔のことが思い出せないこと。


「快……私は10年前、死んでしまったんだね」


先生──快は立ち上がり、私の頬に手を伸ばして涙を拭おうとした。


けれど、彼の手は私をすり抜け虚空を撫でる。


夕焼けの色に身を染めたカーテンが、快の背中で翻った。
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