7歳の侯爵夫人
一方、王宮から自邸に直帰する主人を、ダレルは胡乱な目で眺めていた。
花を贈らなくなって10日、ルーデル公爵邸に寄らなくなってすでに3日過ぎている。

あの日オレリアンは、
『コニーは俺の名前を聞いた後、頭痛を起こしたらしい。しばらく花を贈るのはやめるよ』
と淋しそうに笑った。
それでも少しでも近くに居たかったのか、仕事帰りに公爵邸の前を通るのはやめなかったが、門番に声をかけられて以来、それさえもやめてしまった。
やっとコンスタンスが会う気になってくれたというのに、今度はオレリアンが尻込みしたのだ。

『俺が贈ったリボンの話題だけで頭痛を起こしたんだぞ?俺の顔を見て倒れたりしたらどうする?』
それがオレリアンなりの会わない理由だ。
本当に難儀な主人だと、ダレルは思う。

『コニーが俺を忘れているならまた一からやり直せばいいと思っていた。だが…、そう簡単に行くものではないな』
そう付け加えた主人の顔が忘れられない。

彼はきっと怖いのだ。
自分を忘れてしまった妻と会って現実と向き合うのが。
そして、自分を見て妻が壊れてしまうかもしれないということが。

(臆病な人だ…)
ダレルは気の毒そうに主人を見た。
騎士としては勇猛で、武功を挙げて出世してきた主人だが、こと妻のことになると途端に臆病になる。
そのくらい、コンスタンスという女性は彼にとって大事な人なのだろう。
なんとかしてやりたいとは思うが、こればかりは夫婦の問題である。

ダレルは主人の後ろ姿を見ながらため息をついた。
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