7歳の侯爵夫人
「ところで侯爵様…、私から、2つお願いがございます」
繋いでいる手を強めに握り、コンスタンスが夫を見上げる。

「なんでしょう?貴女の願いなら、なんでもお聞きしますよ」
オレリアンも手を握り返し、優しい目で妻を見下ろす。

すると妻は少しばつが悪そうに、躊躇いながら言葉を繋いだ。
「私は以前、記憶がなかったこととは言え、貴方に酷い言葉を投げつけてしまいました。
ずっとそれを、申し訳なく思っていたのです。貴方は私を『コニー』と愛称で呼んでくださっていたのですよね?どうかまた、『コニー』と呼んでいただけないでしょうか?」

妻の言葉に、オレリアンは驚いたように目を見開いた。
「え?いいのですか?」
「ええ、ぜひ呼んでくださいませ。それから私も、貴方をお名前でお呼びしてもよろしいでしょうか?オレリアン様と」
「ええ、もちろんですよ、コニー」

オレリアンは目を輝かせ、満面の笑みで応える。
コンスタンスはそれを眩しそうに見つめた。
そして、躊躇うように、もう一つの願いも口にした。

「それから…、王妃様とのお茶会が終わったら、私はヒース侯爵邸に戻ってもよろしいでしょうか?」
「それは…」
この願いには、オレリアンは一瞬戸惑った。
まさか、彼女の方からそんな言葉が出るとは思いもよらなかったからだ。

本当なら飛び上がりたいほど嬉しい言葉だが、ここは、冷静にならなくてはいけない。
今の状態の彼女を迎えて、本当に大丈夫なのだろうか?
戸惑うオレリアンを前に、コンスタンスは微笑んだ。

「私は貴方の妻なのですよね?今まで侯爵夫人としての務めも果たさず、貴方には本当に申し訳なかったと思っております。オレリアン様、どうぞ私に本来やるべきことをさせてくださいませ。そして、妻として侯爵家に迎えてくださいませ。それに私は、貴方の妻として、夫であるオレリアン様をもっと知りたいのです」

そのキッパリとした口調と瞳には強い意志が感じられ、7歳の時の彼女とも、19歳の時の彼女とも、また違った笑顔に見えた。
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