7歳の侯爵夫人
フィリップが執務棟に戻るため回廊を歩いて行くと、後宮の入り口を守る警備兵に混ざり、ヒース侯爵オレリアンが立っていた。
行きにも通ったが、コンスタンスに早く会いたくて急いでいたため、気づかなかったらしい。

警備兵は頭を垂れ目を伏せていたが、ヒース侯爵はただ1人、顔を上げ、王太子を見据えていた。
その視線は不敬でもあるが、フィリップは一瞥したのみで通り過ぎた。

3ヶ月前にヒース侯爵家を突然訪ねた折ー。
たしかにオレリアンがコンスタンスを愛おしむ様を、コンスタンスがオレリアンを慕う様を、目の前で見たはずだった。
だが、認めたくなかった。
あれは、記憶を失っているせいなのだからと。

だが、記憶を取り戻したはずの今も、コンスタンスはフィリップを拒絶した。
ーこれは、嫉妬だー
多分フィリップは未だにコンスタンスが自分だけを想っていると思っていたし、そう信じ込みたかったのだ。

「…情け無い…」
フィリップは自らを嘲るような笑みを浮かべ、足早に後宮を後にした。
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