7歳の侯爵夫人
初恋、やり直し

1

その日もコンスタンスは庭で愛犬フィルと戯れていた。
コンスタンスが円盤を投げるとフィルが走って行って上手にキャッチし、また投げてくれとばかりにコンスタンスの元に戻ってくる。
この円盤は先日オレリアンが贈ってくれたもので、フィルにとってもコンスタンスにとってもお気に入りの遊び道具になっていた。

何度目かに投げた円盤が、フィルがキャッチ出来ずに転がって行った。
どうやらコンスタンスの投げ方が下手だったようである。
転がる円盤を追いかけて行ったフィルが、突然庭の外れの大木に向かって唸り始めた。

「ゔー、ゔー」
「どうしたの?フィル」

不思議に思ったコンスタンスが近寄って行くと、大木の陰にはヒース侯爵オレリアンが立っていた。
見つかるつもりはなかったのだろう。
かなり気まずそうな、困ったような顔で立っている。

(こんなところに隠れて、こっそり私を見に来たのかしら…)

コンスタンスに面会を求める夫に、相変わらず父も兄も冷たい。
邪険に追い払われているのに、オレリアンはこうして大木に隠れてまで妻を見に来てくれた…。
そう思ったら、コンスタンスはなんだか胸の奥があたたかくなるような気がした。

それに、こんな大きな男の人が必死に隠れているなんて、なんだか可愛いではないか。
しかも、コンスタンスが気に入りそうなお菓子や玩具をちょくちょく贈ってくれる夫が、悪い人のわけないと思うのだ。

背の高い夫を見上げ、コンスタンスは満面の笑みを浮かべてこう呼んでいた。

「旦那様…!」
と。
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