許されるなら一度だけ恋を…
「ねぇ、撮影って何処でするの?」

てっきり近場で撮影するのかと思っていたのに、何故か蒼志は(あわせ)着物から洋服に着替えて車を出した。

「それは着いてからのお楽しみに決まってるだろ?」

蒼志は機嫌良さそうにハンドルを操作し、車から流れる音楽に耳を傾けている。私は運転の邪魔にならないよう窓の外を見た。

さっきまではコンクリートの建物が立ち並んでいたが、いつの間にか少しずつ自然の風景が増えている。

どんどん人気(ひとけ)の少ない山道に進んでいくけど本当に何処に向かってるのだろう。

私はチラッと運転している蒼志の方を見る。私の視線に気づいたのか蒼志もチラッと私を見た。

「そういや桜と二人で出かけるの初めてだな」

「そうだっけ?」

私は(とぼ)けたように返事をするが、最初から気づいていた。だから余計にこの二人きりの空間に緊張というかドキドキが止まらない。

「着いたぞ」

そう言われて車を降り、ここで撮影するのかなと思いながら辺りをキョロキョロとする。着いた先は自然豊かな景色が広がっていた。
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