許されるなら一度だけ恋を…
「桜さんにはまだ言ってなかったけど、僕はもうすぐ京都の実家に戻ります。ここで学んだ華月流を持ち帰って、今度は京都で父の跡を継いで茶道をやっていくつもりです」

「もうすぐって、いつ頃ですか?」

私は前のめり気味になり奏多さんの顔を覗き込む。奏多さんがいなくなるなんて……考えた事なかった。

「桜さんのプレッシャーになりそうで言いづらいですけど、次期家元候補……というか桜さんのお相手が決まったら京都に帰る予定です。やっぱり次期家元がどんな方が見ておきたいですしね」

「そう……ですか」

それ以上、言葉は出てこなかった。何だか全身の力が抜けるような感覚に陥った。

「桜さんどうしました?」

ボーっとしている私に奏多さんが声をかける。その声に反応して私はハッとした。

「ごめんなさい。何でもないです。じゃあ奏多さんの為にも早く結婚相手探さなきゃですね」

奏多さんにニコッと笑顔を見せたけど、顔の表情筋が上手く動かない。作り笑顔なのバレてないかな。

「蒼志君の事もありますし、今はゆっくりと心の中をリセットさせて下さい。焦りは禁物ですよ」

奏多さんは甘いフェイスでニコッと微笑んだ。

蒼志に失恋した事を忘れそうになるくらい、奏多さんが居なくなってしまう事に何故か私は衝撃を受けてしまった。
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