許されるなら一度だけ恋を…
「桜さん、父と母です」

奏多さんは私の耳元でコソッと言うと、ベッドにいる父親の元へ近づいた。

「大丈夫なんか?腰は」

「まだ痛いわ。寝たきりいうのも辛いな。そや、奏多お使い頼むわ。一階の売店で茶でも買ってきてくれんか?」

「分かった」

奏多さんは病室を出て売店へとお使いに行った。私はどうしたらいいのだろう。

「桜さん、こちらに座って下さい」

奏多さんの母親が椅子を用意してくれた。ニッコリして私が椅子に座るのを待っている。

「ありがとうございます」

私は椅子に座る際にチラッと奏多さんの母親を見る。奏多さんは母親似かな。顔つきもだけど、雰囲気も似てる。

「華月の家元は元気にしているかな?」

「は、はい。元気にしてます」

奏多さんの父親に声をかけられ、緊張しながら答えた。

「それは良かった。それと奏多は迷惑かけてないやろか?」

実家を離れた奏多さんの様子が気になるんだろうな。奏多さんが大事にされているのが分かる。

「迷惑だなんてそんな……むしろ父も私も奏多さんに頼ってばかりで、逆に奏多さんに迷惑かけていると思います。申し訳ございません」

「いやいや、桜さんみたいな美人に頼られて奏多も嬉しいやろな。もう一つ聞きたいんやけど、奏多は真面目やから大丈夫とは思うけど……女遊びなんかはしてないやろか?」

思いがけない質問に私は思わず咳き込んだ。

「えっと、その辺の話は奏多さんとしないのではっきりとは分からないですけど、大丈夫だと思いますよ」

私は苦笑いしながら答える。すると病室のドアが開き、奏多さんが戻って来た。
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