許されるなら一度だけ恋を…
「こんな事を桜さんに言うのも変やけど、奏多本当は嫌々修行しとるんとちゃうかなって不安になるんよ。だから桜さんからは修行してる奏多がどんな風に見えるんかなって」

なるほど。私の奏多さんに対する気持ちがバレた訳じゃなくて、茶道家として華月流(うち)で修行している奏多さんの様子が知りたいのか。

「奏多さんの気持ちは分かりませんけど、私が見る限り奏多さんはいつも笑顔で、茶道が好きじゃなかったらあんな顔で修行できません。私は茶道家として奏多さんの事を尊敬してます」

「それを聞いて安心したわ。でも桜さんも跡継ぎ問題あって大変やろ?うちも奏多によく『はよ嫁さん貰い』って言うてまうけど、桜さんも周りから次期家元の事言われるんちゃう?」

「言われ……ますね」

「でも周りから言われたからって慌てて結婚したらあかんよ。一生の事やし、時間をかけていいからちゃんと後悔しない結婚するんやで」

その言葉を聞いて私の目からは自然に涙がスッと流れた。訳もわからず涙している私の横で、奏多さんの母親が『どないしたん!?』と言いながらあたふたしている。

「す、すみません。私何で涙が出てるんだろ……」

私は後ろ向きになり慌てて指で涙を拭う。そんな私の肩を優しく持ち奏多さんの母親はニコッとした。

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