許されるなら一度だけ恋を…
「桜さん今、恋してるんやね」

「恋ってそんな……」

否定しようとしたけど恋しているのは事実なので、どう反応していいのか分からない。私は頬を赤くさせながら言葉を詰まらせた。

「桜さんは若いんやから、難しい事は考えんと恋愛を楽しまなあかんよ」

「でも家の事を考えるとやっぱり……」

「ふふ、桜さんは真面目やなぁ。なんか奏多みたいやわ。あの子も家の事考え過ぎて恋愛に奥手になってるみたいやし。まぁそれだけ家の事を考えてくれるのは嬉しいけど、家の事に縛られんとうちは奏多には幸せになって欲しいと思てる」

ニッコリしながら話をする姿が奏多さんとよく似ていて、まるで奏多さんと話をしているような感覚になる。

「きっと桜さんとこのご両親も、うちと同じ気持ちやと思うわ」

「ありがとうございます」

私は微笑みながらそう言ってまた茶会の準備を再開する。

奏多さんの母親の言葉はとても嬉しかったけど、私の恋の相手は奏多さん……嫌でも家の事を考えなければいけない相手なのです、と心の中で呟いた。
< 59 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop