許されるなら一度だけ恋を…
「桜さんの気持ちを無視して抱きしめたり……キスした事ですよ」

奏多さんの私を見つめる真っ直ぐな視線にドキドキして目が離せない。

「あの私、怒ってなんかいないです」

「でも桜さんの態度がいつもと違うし、あまり目も合わせてくれませんし?」

「そ、それは……」

「それは?」

「奏多さん見ると昨日の事を思い出してしまい、ドキドキしちゃってまともに顔を見れないというか……」

私は奏多さんから目を背けて、照れながら小声&早口で言った。

「嫌ではなかったって事?」

「……はい」

「良かった〜。もう嫌われたかと思った」

奏多さんはその場にしゃがみ込み、ハァっと大きく息を吐き出した。

「話し方が元に戻りましたね」

私もしゃがみ込み、奏多さんと同じ目線に合わせる。そして関西のイントネーションに戻ったのが嬉しくてニコッと微笑んだ。

「あかん。人前で桜さんと話す時に()に戻らんよう今から敬語で会話しとこ思ったのに」

「話し方なんて気にしないで大丈夫ですよ?」

「いや、あかんねん。一ノ瀬家にとって華月家は特別やから、失礼な態度をとったら周りからドヤされるわ」

奏多さんはしゃがみ込んだ状態からチラッとだけ私を見て話す。そんな奏多さんがなんだか無性に可笑しくて、私は思わず声に出して笑った。
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