許されるなら一度だけ恋を…
「ちょっ……あかん。桜さんのその笑顔反則や」

奏多さんは笑っている私をグイッと胸元に引き寄せて、座ったままギュッと抱きしめてきた。

「え…あの……」

「桜さんが声出して笑ってるとこ、初めて見た気がする。可愛すぎるやろ」

抱きしめている私の耳元でそっと囁く。

「そ、そんな事は……」

「いつも一緒にいる蒼志君は色んな桜さんの表情を見てきとるんやろな。めっちゃ妬けるわ」

奏多さんの抱きしめている腕に力が入る。激しく高鳴る心臓の音を聞かれたらどうしよう。

ねぇ、どうして私の胸をときめかせるような事を言うの?そう思っても声には出せなかった。

「なぁ桜さん。昨日、俺がキスせえへんかったら何て言うてた?言葉の続き、聞かせてくれへんか」

少しの沈黙後、奏多さんは抱きしめている腕を緩め至近距離で真っ直ぐ私を見つめてくる。

「えっと」

突然昨日の続きをって言われても……私が言葉を詰まらせていると、廊下からマナさんの声が聞こえてきた。

「奏多〜どこにいるん?」

私達はパッと障子越しに廊下を見る。一緒にいる所を見られてはいけない、そう思って奏多さんから離れて距離をおこうとしたけど、奏多さんは私の手を握り離してくれなかった。
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