許されるなら一度だけ恋を…
茶会の時間になり、受付を済ませた方達が次々とやってくる。それに合わせ、奏多さんとお弟子さん達もテキパキと忙しそうに動き回っていた。

「あの、私もお手伝いさせて下さい」

見ているだけだと申し訳ないので、近くにいる奏多さんの母親に声をかける。

「もう茶会始まるし、桜さんは奏多の横におってな。今日はみんなに桜さんを紹介せなあかんから」

ニッコリとそう言われ、私は何も言えなくなった。

それから茶会が始まり、奏多さんが地面に引かれた緋毛氈《ひもうせん》の上に正座して、お手前を始める。

いつも通りの手際の良さ、多少の緊張もありそうだけどそれを見せないのは凄いと思う。

茶会の一連の流れが終わり、私は言われた通り奏多さんの隣に行く。そして参加者の皆さんの元へ挨拶回りを始めた。

「今日はご参加ありがとうございます」

「おー奏多、久しぶりやないか。立派に成長して一ノ瀬家も安泰やな」

奏多さんが年配の男性に挨拶すると、その男性はニコニコしながら奏多さんの肩をポンとする。

「いえ、僕なんてまだまだです」

「おまけにえらいべっぴんの嫁さん連れて帰ってきて、家元いつでも引退できるんとちゃうか」

そして男性の視線が今度は私に向く。バッチリ目が合ったので私はペコっと頭を下げた。

「えらい綺麗な人がおるなぁ思ってたら、奏多の嫁さんやったんか」

気がつくと私達の周りに人が集まっていた。
< 66 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop