許されるなら一度だけ恋を…
誰かしら……そう思いながら携帯を取り出して確認すると、着信は蒼志からだった。

「もしもし」

「あっ桜、急に悪いな。今、話出来るか?」

珍しくかかってきた蒼志からの電話に、少しなら大丈夫と言って話を聞く。

「仕事の話なんだけど、山本様が着物の購入を考えてて、どうしても桜に着物を選んで欲しいって言うんだ」

「山本様が私に?」

「あぁ。桜の事、すげぇ気に入ってるからな。それで桜の出勤日に合わせて店に行くから次の出勤はいつ?って聞かれてんだけど」

「……なら早めの方がいいわね。今日中に帰るから明日以降ならいつでも出勤大丈夫よ」

そう言って蒼志との会話を終わらせ、フゥっと一息つく。

「電話してたん?」

一息ついて気が緩んだ所に話しかけられ、ビクッとしながら声のする方を見ると、奏多さんが歩きながら私の元へ近づいてきた。

「えっと、お茶会の最中に携帯に出てしまってすみません」

「それはええねんけど、今の電話ってもしかして蒼志君?」

「はい。仕事の件で少し話をしてました」

「そうみたいやな……それよりなんか今日帰るって聞こえた気がしたんやけど」

奏多さんはジッと私の顔を見ながら返事を待っている。

「お茶会の後片付けまで終わったら帰ろうと思います。呉服屋のお得意様が私の帰りを待っているみたいですし」

あと一つ、私がいる事で奏多さんの里帰りの邪魔になるのではと思ったけど、その事は奏多さんには言わなかった。
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