許されるなら一度だけ恋を…
「失礼な態度を取ってしまっていた事は申し訳ないです。ただ、奏多さんと一緒にいると真那さんの視線が痛くて」

「真那?何でそこに真那が出てくるん?」

想定外の回答だったのか奏多さんはキョトンとして、話し方がさっきまでの標準語からまた()に戻っている。

「だって真那さんは奏多さんと結婚する方なのでしょう?だから私が奏多さんの隣にいると気にするのではと思って」

奏多さんは何故か不思議そうな表情で私をジッと見る。

「俺が真那と結婚?誰かがそう言ったん?」

「はい、真那さんからそう聞きましたけど。それに再会した時に浮気しなかった?とか聞かれてたし」

私の話を聞いて奏多さんは笑顔を見せる。

「それは真那が桜さんを揶揄(からか)ったんちゃう?だって別に俺と真那は付き合ってないし、まして結婚なんてないわ。あと浮気も何も俺には彼女も居ないのに浮気しようがないやん」

私が気づかなかっただけで関西特有のノリだったのかな。

「俺な、大学生の弟がおるんやけど、真那はその弟の同級生で幼なじみなんや。真那から見たら、俺は幼なじみのお兄さんって感じやろな」

本当に彼女じゃなかったんだ。でも真那の表情や言い方からはとても冗談には聞こえなかった。やっぱり真那さんは奏多さんの事……

「後悔してないなら良かった。茶会の前にあの夜の事は嫌じゃなかったって桜さんは言うてくれたけど、ほんまは気にしてるんちゃうかと思って」

奏多さんは私の頭に手をポンと乗せて安心したような笑みをした。そして待たせているタクシーの所まで歩き始める。

「じゃあ……気をつけて帰ってな」

タクシーのドアが開き、私は奏多さんに「はい」と言って後ろの席に乗り込む。

離れ難い……でも私はそれを言ってはいけない立場だ。自分の想いを必死に閉じ込めて、奏多さんに向かって微笑んだ。
< 71 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop