許されるなら一度だけ恋を…
「まぁ簡単に返事できる話じゃねぇし、少し考えてくれないか?」

「……うん」

その後も蒼志は色々話をしていたけど、私は(うわ)の空で話が頭に入ってこなかった。

「さて、俺の理性があるうちに帰るか」

蒼志は腕を伸び〜と上を上げ、席を立つ。続くように私もスッと席を立った。

居酒屋を出た私達は何となく気まずい空気の中、並んで歩き出す。

「帰り、送ってくれなくて大丈夫よ」

「ばぁか、こういう時は黙って送られとけ」

私の頭をガシッと掴んで蒼志はニッと笑顔を見せる。

それにしても蒼志のいつもと違う態度に私は戸惑ってしまう。前に私を女性扱いするのは最後だって言ったはずなのに。

「おい、桜?」

ボーっとしながら歩いている私の前に蒼志が立ち止まる。

「えっ?あ、ごめん。ボーっとしてた」

私は謝りながら俯き加減だった顔を上げる。気がつくともう私の家に着いていた。

「じゃあまた明日な」

私を送り終えた蒼志はクルッと背を向けて歩き出す。でも数歩進んでピタッと止まり、また私の方を向いた。

「さっきはハッキリ言わなかったけど、俺……桜の事好きだから」

蒼志の表情は暗くてよく見えなかったけど、それだけ言って足早に帰って行った。
< 76 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop