許されるなら一度だけ恋を…
「奏多さん!?」

私は思わず窓から声を出す。すると奏多さんは携帯を耳に当てて、ジェスチャーで自分の携帯を指差した。

携帯……私も携帯をギュッと握り、耳に当てた。

「こんばんは」

奏多さんの声が携帯から聞こえてくる。目の前には京都にいるはずの奏多さんの姿……一体どういう事?

「どうして奏多さんがここに?」

私は奏多さんの姿を見ながら携帯で質問する。

「昨日、桜さんの声が聞きたくて電話したけど、声を聞いたら今度は会いたくなったから……会いに来てもうた」

まさかの展開に私は呆然としながら奏多さんを見ている。すると奏多さんは優しい表情のまま、私をジッと見て話を続けた。

「好きや。俺、桜さんの事……めっちゃ好きみたいや」

「えっ……今、何て?」

「はは、もう言わんし。じゃあおやすみ」

奏多さんは私に向かって手を振ると携帯を切り、傘に隠れて奏多さんの姿が見えなくなったまま歩き出した。

「奏多さん、ちょっと待って」

私は急いで玄関へ行き、勢いよく外に出る。傘もささないままさっきまで奏多さんがいた外灯まで走ったけど、すでに奏多さんは居なかった。

これは夢?(まぼろし)

私の中でリピートされる『好きや』という言葉。

雨に打たれて身体は冷たくなっているはずなのに、何だか全身熱くなっていた。
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