もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません

「疲れが出てしまわれたようで、ここ数日熱が下がりません」

 マリーのあとに続いて入ってきた先ほどの男性が説明をする。

 話し声に反応したのか、ハスキー犬は閉じていた瞳を微かに開けた。
 澄んだ美しい青色が、凄まじい気迫で案内役の男性を見据えた。

 睨まれたとも思えるが、フォルムがフォルムだけに怖さは感じられない。
 ただ、男性は素早く姿勢を正した。

「ハッ。私はテントの外で待機させていただきます」

 目があっただけで敬礼をし、男性は出て行く。
 ハスキー犬に対し敬語を使うくらいに、高貴な人の飼い犬なのだろう。

 犬とはいえ、ただならぬオーラを纏っている気もしなくもない。

 そんな犬とふたりきりで……ひとりと一匹で大丈夫かな。
 治せばいいんだよね?

 でも……。
 元気になったら、また触れなくなるんだよなあ。

 そっと体に触れるとビクリと体を揺らす。

「ごめんね。怖くないからね」

 声をかけつつ、うわっ、なにこのふわふわ! と、煩悩が漏れ出そうになる。

 ダメダメ。
 治療に専念しなきゃ!

 心を鬼にして、もふもふして撫で回して舐め回したいくらいの気持ちを押し留め、ハスキー犬に改めて手をかざす。
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