もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません

「ヒーリング」

 目を閉じ、念を込めると手のひらが温かくなり、かざしている手の先が淡い光に包まれていく。

 光の中心にいるハスキーは次第に顔から険しい表情が解けていき、スッと力が抜けたのがわかった。

「ふう。なんとか良くなったかな」

 マリーの声に呼応するように、ハスキー犬はゆっくりとまぶたを上げた。

 先ほどよりも強く澄んだ青い双眼が、マリーを真っ直ぐに見つめる。

 その眼差しには力を感じられたが『きゅるりん』という効果音がバッチリ似合いそうな愛らしい見た目には叶わない。

「わわぁー。もふもふー」

 すっかり元気になったふわふわを前に理性は崩壊して、顔から一直線にハスキー目掛けて吸い寄せられる。

 ぷにゅ。

 おかしい。もふもふのふわふわに到達する前に止まってしまった。
 目を開けると、あろうことかハスキー犬は前足でおでこを押さえつけ行く手を阻んでいるではないか!

 すかさず手で触ろうと試みると尻尾を振り回し……器用に叩かれてない?
 しかも顔面に前足を置いたままで!

 いくら尻尾までもふもふのふわふわでも、叩かれたらその触り心地を堪能できないじゃない!

 なんてもったいない‼︎

 爪は出さずに肉球で押さえつけられているのだから、そこに親愛を感じていいのか。

 それとも私、幼獣に舐められている?

 いやいや。そんな馬鹿な。
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