もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません

「たぶんって、そこ迷っちゃうんだもんなあ」

 カラカラと笑う先輩を尻目に、マリーは切実な声と表情で訴える。

「だって私、もふもふに飢えているんです」

「それは……。うん。残念だねとしか、言いようがないな」

 マリーの容姿は岩みたいなイノシシからも怯えられるくらいの筋肉隆々の強靭な肉体でもなければ、背丈が二メートルもあるような大柄でもない。

 どちらかといえば華奢で背も低く、顔立ちも可愛らしい。
 明るいハニーブラウンの艶のある髪はゆるく後ろに結えられ、クリクリとよく動く大きな瞳は髪と同じ柔らかな蜂蜜色。

 もふもふふわふわが大好きなどちらかといえば女の子らしいのに、助けたイノシシに怯えられるのも、剛毛なイノシシをぼんやり眺めながらもふもふを妄想してしまうほどにもふもふ飢えしているのも、マリーやマリーの近くにいる人たちにとって当たり前になっていた。
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