もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません
「す、すみません。弁償します」
マリーが咄嗟に口をついた言葉に、イーサンは呆れ声で無情に告げる。
「弁償、ですか。お城に置かれているものは全て一級品ですので、九百万ユニはくだらないかと」
九百万ユニ……。私のお給料何年分だろう。
マリーは自身の体に腕を回し、震えそうな体を抱きしめる。恐ろしくて、すぐ近くにあるエリックの顔が見られない。
「聖獣の世話をすればいい。初めからそのつもりで呼び寄せたのだ」
低い声が頭上から響き、縮み上がる。
「ひとまずマリア様は、先ほどの聖獣たちのいる部屋で待機していてください」
"マリア様"じゃないったら!
間違いを訂正する気力もなく、部屋からつまみ出されるように退室させられた。
とぼとぼと歩きながら、ガラス窓に映る自分の姿に気付く。
そこにあるのは入浴させられ着替えた、姿だけは綺麗に整えられたマリー。自分ではないみたいな身なりが、酷く滑稽に思える。
ただの平民の私に"聖獣の世話係"なんて大役が務まるわけないわ。壺の代金は少しずつ返済させてもらおう。
固く決意して、来た道を引き返した。