もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません
マリーがいるここは、ユラニス王国アンセスター地方の野戦病院。
広大で豊かな領地は王国の人々に恵みをもたらすとともに、隣国からの侵略とも常に隣り合わせで戦も多い。
そんな中マリーは、わけあって危険を顧みず戦場の後方に位置するここで働いている。
動物たちを治療、療養させる大きなテントは移動可能で、戦に赴き負傷した戦獣の治療にあたる。
もちろん人間用の野戦病院も存在しているが、ここは動物専用だ。
痛みで暴れ出したりして新たな負傷者を出させないために、人の野戦病院のテントとは離れた場所に建てられる。
そしてどことなくのんびりした雰囲気なのは、怪我人を絶えず出していた隣国との争いが一時休戦となったからだ。
第三王子のお陰で、平和的解決へ向かうと知らせが来て、みんなで手と手を取り合い喜んだのはつい数週間前。
同僚は一様に疲れを滲ませつつも、終始晴れやかな顔をしている。
休戦の知らせを聞いたときは、マリーもホッと息をついた。
ただ、マリーとしては別の心配事が頭をもたげてくる。
"次の就職先問題"
自分勝手な思考に陥りそうになり、慌てて首を横に振る。
平和になって動物たちが傷つかない世の中の方がいいに決まってる。
明るく前向きにならなくっちゃ。
きっと、いい就職先が見つかるわよ。
マリー以外の同僚は次々に新しい職場が決まり、働いているメンバーは数人しか残っていない。
その人たちだって大まかな働き口は決まっていて、今後の働き先が全くの白紙なのはマリーくらいだ。