もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません

◇◇◇◇◇

 あのとき、極上のふわふわだったなあ。

 治療した見返りにとばかりに、存分にもふもふしまくった。

 そうなのだ。その頃はまだ触れたのだ。

 小さい頃は触れたんだよね。
 でも、そのときにもふもふしたのが最後かもしれない。

「あー。こんなことなら、もっと顔を(うず)めておくんだった」

「は?」

"野戦病院のマリア"を案内する軍人と歩いている状況を忘れ、思わず本音が漏れたせいで隣で大きく見開かれた瞳と目が合った。

 心なしか心理的に距離を取られた空気を感じ、訂正する。

「あ、いえ。あなたさまに言ったわけではありませんよ」

「もちろんです」

 当たり前だと眉をひそめる男性に念を押す。

「私が埋めたいのは動物の体であって」

 ひそめていた眉をこれでもかと上げられ、同僚と同じ勘違いをされる。

「イノシシの体に顔を埋められたかったのですね。奇特な方だ」

「いや、だから違うんです。いえ、いいです。大した差ではありませんから」

 もういいよ。いっそのことイソシシの群れに放り込んでください。
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