保健室で、君と最後のキス
だけど一つだけ、日向から借りていた辞書を返さなければいけなかった。
と、先程まで抱えていたはずの右手を見る。
しかし、そこには何も無い。
もしかして、保健室に忘れてきた…?
今思い返せば、八神くんに話しかけられるまでは確実に持っていたはずだし、その時ベッドの上に置いてきた気がする。
確か、今日は日向の部活もOFF日だった気がするし、放課後になる前までになんとか取り戻してこなきゃ…。
日向に 放課後辞書を返したい という内容のLINEを送り、私は六時間目が終わるのを待った。
***
六時間目終了合図のチャイム後、私は急いで保健室へと向かう。
10分後にHRがあるためだ。
保健室に着き、コンコン、と軽くノックをしてから扉を開ける。
「かよちゃーん?」
恐る恐る顔を覗かせ、先生の名前を呼ぶけれどそこには誰もいなかった。
急いでるので仕方がない。こっそりと中へ入り、昼休みに私が使わせて貰ったベッドへと足を運ぶ。
幸いにも、他の生徒は使ってないようだ。
しかし、ベッドの上を見る限り、あの辞書は見当たらない。
畳まれた布団の下を見ても、ベッドの下を見ても、ない。