保健室で、君と最後のキス




「ど、どうしよう」




心当たりはここしかないのに……。




私があたふたしていると、隣のカーテンがシャーッと音を立てて、まるでデジャブのように彼がその隙間からこちらを覗いていた。




「あ…八神くん」


「もしかして、これ探してる?」




彼が片手に持つそれは、確実に私が探していた辞書であった。




「そう!それを探しに来たの!」




ありがとう、と八神くんが差し出すその辞書を受け取ろうとすると、ひょいっと上に持ち上げられた。




「ちょ、ちょっと!」




彼はその辞書を見つめながら、



「ヒナタって、"日向"って書くんだね」



なんて呑気に呟いた。




「う、うん、そうなんだけど今急いでるから、返してもらってもいい?」




私は軽く微笑みながら、彼の持つ辞書の方へと手を伸ばした。




「俺の方が字綺麗だよ」




そう言って、更に上へと持ち上げる八神くん。



私もそろそろムッとしてくる。




「何が言いたいの?」


「字ってさ、心の性格が出るって言うじゃん?」




だから俺の方が綺麗だよ、ともう一度言い直す八神くん。




そんなことをいやらしい顔で言ってくるので、私も言い返そうとしたその時ー




『ブブー』



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