秘密の一夜で、俺様御曹司の身ごもり妻になりました
 私が事故に遭ってそんなにショックだったのだろうか。
「それで軽傷で済んだんですね。私って悪運が強いのかも」
 クスッと笑ってみせるが、彼はちっとも笑わない。
「事故に遭ったと知った時は、心臓が止まるほど驚いたんだ」
 私の手を掴みながら緊迫した声で告げる彼。
 このシリアスなムードに気詰まりを覚えて、彼の手をそっと外して謝罪した。
「あー、なんかご迷惑おかけしてしまってすみません。もう大丈夫なので帰っていただいていいですよ、神崎さんも忙しいでしょう?」
 どうして病院から神崎さんに連絡がいったのか謎だけど、私が彼の名刺でも持っていたのかもしれない。
 ずっとついていてくれたのか疲れた顔をしているし、これ以上面倒はかけたくなかった。
「神崎さん……?」
 彼は目を大きく見開いて聞き返す。
 え? 私、なにかおかしなこと言った?
「神崎さんは神崎さんでしょう? 今はふたりだけだし、婚約者の演技をする必要はないじゃないですか」
 実は私は五百万円という高額報酬で神崎さんに雇われている。
 彼の偽の婚約者として――。
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