奇妙でお菓子な夕陽屋
ドッペルゲンガーと記憶チェンジャー

 自分と同じ姿の人間がいたら、便利だと思ったことはない? 風邪をひいた時や体調が悪い時にテストを代わりに受けてくれる人間がいたら――どんなに便利だろうか?

 自分より優秀ならばテストの点数は上がるだろうが、自分よりも勉強ができないコピー人間ならば役に立たないだろう。この場合はコピーなので、自分と同じ能力が前提なので、自分の能力が上がったりすることはない。でも、自分がのんびりしている間に、別な誰かに頑張ってもらう。そして、疲れたらコピー人間と交換するっていうことが可能になる。夢のような話だなと少年Aは考える。

 都市伝説に自分と同じ姿の人間(ドッペルゲンガー)を見たら死ぬという話があるんだけれど、実際に出会ってしまったという人が今回の主人公の少年Aだ。

 未来ノートと書かれたノートがAの部屋の机の上においてある。こんなノートを見たことはなかった。

 少年Aはドッペルゲンガーを見るようになった。彼のまわりでもなぜか少年Aを目撃したという人がいたのだが、自分が行ってもいない場所だった。そして、こわくなったころ、少年Aは夢の中でも自分自身に出会い、その謎の自分に追いかけられた。振り返ると、なぜか血まみれになった自分が追いかけてくる。必死に逃げ回っていると目が覚めた。これは夢なのだろうか? 現実なのだろうか? 急いでノートに館に行くと書き込んだ。その時は駆け込みでも助けてくれる場所であり、最後のとりでのような存在だったのだと思う。

「ここは?」
「夕陽屋」
「あなたは?」
「夕陽屋の番人、黄昏夕陽」
「実は、助けてほしいんだ。運よく都市伝説の館にたどりつけた」
 やってきた少年の顔は青ざめていて、とても焦っていた。

「僕、最近、自分自身を見たんだ……そっくりとかじゃなくって。僕そのものだったんだ」
「ドッペルゲンガーかな」
「見たら死ぬって都市伝説を聞いて、いてもたってもいられなくって……」
 少年Aの顔は青ざめていて手は震えているようだった。

「あなたには、記憶チェンジャーという映像を見てもらおうか」
「記憶チェンジャー?」
「ここにはたくさんの映像があるんだ。君の記憶をおきかえるってこと。君は自分自身に会ったことはないっていう記憶に変わるんだ」
「でも、これから、また自分に会ってしまったら?」
「ドッペルゲンガーの姿を見たら黄昏夕陽を見たという記憶になるように設定しておくから」

 夕陽は自ら発明したヘッドフォンの何かを操作していた。そして、少年に1台の映像を映し出す大きな機械の前に座らせた。それは大画面は大きなテレビのようでもあり、座ってみると映画館の画面のようだった。まるで見ている人が飲み込まれるような感じになる。

 圧倒的な迫力の前で見ているものはその世界に入ってしまう。ヘッドフォンをつけたサウンドは、本当にその世界を歩いているような錯覚におちいる。

「この映像を見てみて、すごく臨場感があるんだ。さあ、ヘッドフォンをつけて」
 少年は言われるがままにヘッドフォンをつけて大画面の画像を見せられる。

 学校の帰りに人が多い街の中を通るのだが、その人ごみの中に自分自身がいて、こちらを見ていたはずだった。しかし、人ごみにいたドッペルゲンガーは黄昏夕陽に差し替えられていた。そして、夕陽が少年のもとにやってきて話しかけてくる。
「あなたはこれから俺と会ったという事実を忘れる」

 その画面の世界は今、ここで起こっているいつもと同じ世界だった。なんで、今自分がいる世界がそのまま映像になっているのかわからなかったが、心地いい音楽が少年の耳に残る。そして、気が遠くなる。

 気づくと少年はベッドの上にいた。そして、全ての記憶は消されていた。覚えていないと言ったほうがいい。

 その後、時々少年の行く場所に、何度か見たことのある少年がいるのだが、近づくと見失うという現象が起こった。
 ――ということは、ドッペルゲンガーが何度も本人の前に現れたということになる。もう一人の自分の目的は何なのだろうか? 警告なのか? おそれてほしいのか?

 夕陽のことを少年Aは覚えていない。これは、何度も少年が自分自身を見ていたのか、本当に夕陽がいたのか、誰にも確認のしようがないということだった。そして、黄昏夕陽の顔は少年にとって恐怖の対象となった。

 もしも、自分が二人いたら便利だなと思ったとしても、二人いたらややこしいことになるのでおすすめはしない。そして、本当に自分自身を見てしまっても、夕陽屋に行けば、きっと助けてくれる少年がいるだろう。しかし、少年の記憶はないので少年の中では黄昏夕陽を見るたびに逃げるという現象が起きてしまった。そして、呪いの少年と勝手に夕陽の姿を名付けていた。恩人が呪いの存在に差しかわってしまう。記憶は重要なツールとなるのだ。

 もしも、あなたがドッペルゲンガーを見た時の対処法としては、見たという記憶を消すことが大切。そして、都市伝説の館の記憶チェンジャーがおすすめだけれど、黄昏夕陽の顔が恐怖の対象になる可能性は大きいので要注意。
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