ごめん、好き。

スッと平野さんの手が私に向かって伸びてきたのが見え、咄嗟の判断が出来なかった私はギュッと目を瞑った。

だけど、
いつまで経っても何も起こらない。

寧ろ音すら聞こえなくて。


「……?」

不思議に思ってゆっくり瞼をあげると、首に掛けている私の名札を眺める平野さんの姿を捉えた。




中谷(なかたに) 真緒(まお)


書かれているままを声に出して読んだ平野さんは、ゆっくり手を離し、名札が胸の位置に戻る。


バチッと視線が合わさり、


「キスされるかと思った?」

平野さんは少し口角を上げ、悪戯っぽく笑みを浮かべた。


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