幸せになりたい神様を拾いました
ずっと、ずっと昔の夢を見た。
まだ私の家族が家族としてのカタチを成していた頃の記憶。
近所には桜の大樹があり、春になるとそこで父、母、兄、私、4人でお花見をした。
けれどそれも、私が小学生になるまでの事。
「お母さん、桜の下に男の人と女の人がいるよ」
私には見える存在として目に映るのに、見えない父、母、兄は不思議がって、気味悪がった。
自分に見えている存在、人には見えていない、どれがそうでどれが違うのか、私にはわからなかった。
「呪われた子」
「あの子はどこかおかしい」
「構って欲しくて嘘を言う」
母と父の会話や、私をどうにかしようとして宗教にハマり始めた母と、辞めさせようとする父の口論は日常茶飯事。
それを見聞きした兄からは「佐智が生まれなければ、お父さんとお母さんは仲良しだったのに」と泣きながら責められた。
安易に口にすると顔色が変わる家族と話す事が次第に怖くなり、苦痛になり、ギクシャクし始める家族の関係に疲れ果てた母は兄を連れて実家へと帰ってしまい、数年後には両親は離婚。
私と暮らしてくれた父も、私が高校を卒業と同時に1人暮らしを勧めてきた。
反論の余地はなく、私は実家から遠く離れたこの土地に移り住み、人の良い社長夫婦が営む印刷工場で事務の仕事に就き、この生活にも慣れてきた頃、疎遠だった父からの連絡で、通り魔事件に巻き込まれた母が刺されて死んだと伝えられた。