それでも、精いっぱい恋をした。


レッドボーイ、なんて繊細なやつなの…。


ちらりと彼を見ると話しを聞いていたみたいで、ちょっと笑ってる。かっこいい笑顔によけい申し訳なくなってきた。

ユズの兄貴がお金は良いって言ってくれた。有り金すべて叩くつもりだったのに。



「なあ、ごめん!」


呼びかけて、いつも使ってるフルフェイスのヘルメットを軽く投げる。ちょっと逸れたのに受け取ってくれた。さすが文武両道。


「お礼するからうしろ乗って!」


そう言うと小走りでこっちにくる。


「安全運転するからはやく」


ぽんぽん、とタンデムシートを叩くと彼はそこに跨った。

エンジンをかける。キュートでかっこいい音が鳴り響く。レッドボーイ、本調子。


おなかに回った手がそこの布をぎゅうっと掴んできた。


ゆっくり走れるから、大通りじゃなくて川沿いを走った。あまりにもぎゅうぎゅう掴んでくるからこわいのかもと思って、止まりそうなくらいゆっくり走らせる。

前のほうに引かれた電線に鳩がいっぱい並んでいて「うえ」とつぶやくと、うしろからも同じ声がした。


「どこいくの」

「いいとこ!」


あんまり気になってなさそうな声で言うからテキトウに返す。

うそはついてない。ぜったい気に入ってもらえると思う。自信を持って連れてくよ。

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