それでも、精いっぱい恋をした。


しばらく話していると校庭の奥から野太い声がタケちゃんを呼んだ。

あれは同じクラスのゴウスケ。ガタイの良い身体でエースのタケちゃんを支える女房役。


「美島ジャマすんなー!」

「うるせー!」


ジャマってなんだよな。今年の夏は予選3回戦で敗退してしまって、秋の大会に向けて気合い入れるんだって言ってたっけ。

たしかに長く話し込んでしまった。タケちゃんにがんばって、と伝えて手を振る。

これ以上我が校期待の星にちょっかい出してたらゴウスケに文句言われるだけじゃ済まない。


正門を出て、一応周りを見渡す。


誰もいないことを何度も確認して、学校から少し離れた小さなお饅頭屋の裏の駐車場に停めてある愛車へ駆け寄る。

カバーを外すと中から出てきたかっこよすぎる艶めかしい赤いボディ。はー、会いたかったよ。


この子はわたしの宝物で、免許を取ったと同時にバイト代とお年玉を費やして購入したバイク。

大きな瞳がこっちを向く。レッドボーイが「おかえり春希」って言ってくれてる!ぜったい!大好き。癒される艶やかボディをひと撫でする。



バイク通学が先生にバレたら即退学になるから細心の注意を払ってバイクに跨りエンジンをつける──── ほわい???

レッドボーイのかっこいい吹かし音が聴こえてこない。どうしよう、壊 れ、た…?



今朝は元気だったのに…!可哀想に。すぐに直してあげるからね。

クラスメイトの兄貴が修理屋さんで働いている。

ここから歩いて10分ほど。だけど学校前を通らなくちゃならないからそれはまずい。遠回りすると20分か…バイクを引きずりながらだとどれくらいかかるかわからないけどレッドボーイのためだ。ハンドルを握りしめて歩き出す。

< 4 / 148 >

この作品をシェア

pagetop