5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
魔法指導と土人形
この世界へ来てから三ヶ月。順調に依頼をこなしていた私とフレディだったが、私はここらでひとつ新たなチャレンジをしてみようと考えていた。
というのも、ランクがなかなか上がらなくなったことが根本にある。
たくさんある依頼の中で、もっとも報酬の高いものはレベルの高いモンスターの討伐や、迷宮探索だ。
しかし、これらは危険が伴うので、依頼を受けられるランクが限られている。既にAランクに上り詰めたフレディはほとんどの依頼を受けられるが、私はそうもいかない。更にモンスター討伐は、討伐者がいちばんランクが上がるような仕組みになっている。
私は聖女なので、基本戦闘に関してはサポートすることしかできない。倒すのは、いつもフレディの役目だ。
私は自分の手でモンスターを倒せないので、フレディのように一気にランクを上げることは難しかった。
――早く私もランクを上げて、報酬の高い依頼をこなせるようになりたい! そう。すべては自身の夢のために。
そこで私は、フレディにこんなお願いをしてみることにした。
「もっといろんな魔法を使えるようになりたい?」
私が作ったクリームシチューをもぐもぐと食べながら、フレディは私が言ったことを復唱した。
「そう。私、強くなるためにもっと魔法を勉強したいの。私もフレディみたいに、モンスターを倒せるようになりたい!」
私の考えた新たなチャレンジとは、このことだ。
私はまだ体も小さいので、体術を極めるよりも魔力を優先して極めることを選んだ。治癒やその他の回復魔法以外も習得できれば、魔法でモンスターを倒すことができると考えたのだ。
「今でもじゅうぶん使えると思うけどな。火も水も出せるし」
「それはただの生活魔法だもん。戦闘に役立つ魔法を使いたいの」
「そうか。……うーん。俺が教えてあげられたらいいけど、生憎、魔法のセンスはまったくないからなぁ」
スプーンを置き、フレディは腕を組んで難しそうな顔をした。
「じゃあ、まずは魔法の得意な人を見つけることから始めるしかないかぁ。ギルドに魔道士は何人もいるよね」
「そうだな。魔道士から直接教えてもらうのがいちばんいいと思う。俺もついてるから、メイに変なことはさせないし」
「それじゃあさっそく明日、私の魔法の師匠になる人を探してみよう!」
こうして、魔法を指導してくれる魔道士を探すこととなったのだが――。
「……全然見つからない!」
ひとりでモンスター討伐の依頼を受けたフレディを見送ったあと、私はギルド近くにある公園のベンチでそう嘆いた。
師匠となる魔道士を捜し始めて早三日――まったく見つかる気がしない。
主な原因はわかっている。フレディだ。
フレディは私に対して超絶過保護なので、いつも私に近づく人を睨み付ける癖がある。そのせいで、話しかけてもみんなすぐに逃げて行ってしまう。
それに、万年Fランク冒険者と言われていたフレディが今では高ランク冒険者になったことで、みんなフレディにどう接したらいいのかわからないようだ。馬鹿にすることはなくなったが、歩み寄ろうとする者もほとんどいない。今まで彼の強さを知らずに蔑んでいたことへの後ろめたさがあるのだろうか。
フレディもフレディで、自ら誰かに話しかけようとはしないし……。
私とフレディは、未だにギルド内で少し浮いている存在になっている。どうにか解決したいものだ。でも、どうすればいいものか……。
ため息を吐いていると、私の足元に何かが触れた。
驚いて下を見ると、はにわのような形をした土人形が私の足元で奇妙なステップを踏んでいる。
……これって、土魔法で作った土人形かな?
実物を見るのが初めてで、食い入るように土人形を見つめる。
へんてこな動きとなんともいえない見た目が次第に愛らしく感じるようになり、私はあっという間にその土人形に心を奪われてしまった。
――ちょっと触ってみてもいいかな? 触れたら壊れるとかないよね?
興味が湧き、恐る恐る土人形に手を伸ばしてみる。するとその瞬間に、土人形はくるりと向きを変え走り出して行った。
「あっ! 待って!」
おもわず立ち上がり土人形を追いかけようとすると、公園の入り口にひとりの男性が立っているのが目に入った。
その男性は真っ黒で大きめのローブを羽織り、黒い帽子をかぶっている。いわゆる典型的な〝魔道士の格好〟をしていた。
土人形は彼のところまで行くと、そのまま一緒に公園から去って行った。きっとあの魔道士が、土人形の造主なのだろう。
ぼーっと後ろ姿を眺めていると、突然土人形がこちらを振り返った。驚きながらも控えめに手を振ってみると、土人形が手を振り返してくれた。
――な、なんてかわいいの!
ますます私は、あの土人形に心を奪われてしまった。
両頬を押さえながらあまりの可愛さに感動していると、魔道士も一瞬だけこちらを振り返る。
その時、紫の髪の隙間から、少しだけ彼の顔を見ることができた。
少し幼さの残る中性的な顔立ち。その顔はフレディに負けないほど整っていて、しばし見惚れてしまうほどだ。
魔道士はすぐにふいっと前を向くと、またスタスタと歩き出して行った。
「……見つけた。私の師匠」
去りゆく背中に向かって、私は呟く。この瞬間、私はあの魔道士を師匠にすることに決めた。
だってそうすればまた土人形にも会えるし、なんなら土人形の作り方だって教えてもらえる!
ギルドの近くにいたってことは、ギルドに登録している魔道士とみていいだろう。でも、あんな人今日初めて見た。あまりギルドに顔を出さないのだろうか。
名前もわからないし、とにかく情報がなさすぎる。
私は彼の情報を得るために、キース マスターに会いに行くことにした。マスターは基本ギルド内にある執務室にいることが多いので、早足でギルドへと戻る。
すると、ちょうど依頼を終えたフレディと鉢合わせた。
師匠にしたい魔道士を見つけた旨をフレディに伝えると、そのまま一緒に執務室へと向かうことになった。
というのも、ランクがなかなか上がらなくなったことが根本にある。
たくさんある依頼の中で、もっとも報酬の高いものはレベルの高いモンスターの討伐や、迷宮探索だ。
しかし、これらは危険が伴うので、依頼を受けられるランクが限られている。既にAランクに上り詰めたフレディはほとんどの依頼を受けられるが、私はそうもいかない。更にモンスター討伐は、討伐者がいちばんランクが上がるような仕組みになっている。
私は聖女なので、基本戦闘に関してはサポートすることしかできない。倒すのは、いつもフレディの役目だ。
私は自分の手でモンスターを倒せないので、フレディのように一気にランクを上げることは難しかった。
――早く私もランクを上げて、報酬の高い依頼をこなせるようになりたい! そう。すべては自身の夢のために。
そこで私は、フレディにこんなお願いをしてみることにした。
「もっといろんな魔法を使えるようになりたい?」
私が作ったクリームシチューをもぐもぐと食べながら、フレディは私が言ったことを復唱した。
「そう。私、強くなるためにもっと魔法を勉強したいの。私もフレディみたいに、モンスターを倒せるようになりたい!」
私の考えた新たなチャレンジとは、このことだ。
私はまだ体も小さいので、体術を極めるよりも魔力を優先して極めることを選んだ。治癒やその他の回復魔法以外も習得できれば、魔法でモンスターを倒すことができると考えたのだ。
「今でもじゅうぶん使えると思うけどな。火も水も出せるし」
「それはただの生活魔法だもん。戦闘に役立つ魔法を使いたいの」
「そうか。……うーん。俺が教えてあげられたらいいけど、生憎、魔法のセンスはまったくないからなぁ」
スプーンを置き、フレディは腕を組んで難しそうな顔をした。
「じゃあ、まずは魔法の得意な人を見つけることから始めるしかないかぁ。ギルドに魔道士は何人もいるよね」
「そうだな。魔道士から直接教えてもらうのがいちばんいいと思う。俺もついてるから、メイに変なことはさせないし」
「それじゃあさっそく明日、私の魔法の師匠になる人を探してみよう!」
こうして、魔法を指導してくれる魔道士を探すこととなったのだが――。
「……全然見つからない!」
ひとりでモンスター討伐の依頼を受けたフレディを見送ったあと、私はギルド近くにある公園のベンチでそう嘆いた。
師匠となる魔道士を捜し始めて早三日――まったく見つかる気がしない。
主な原因はわかっている。フレディだ。
フレディは私に対して超絶過保護なので、いつも私に近づく人を睨み付ける癖がある。そのせいで、話しかけてもみんなすぐに逃げて行ってしまう。
それに、万年Fランク冒険者と言われていたフレディが今では高ランク冒険者になったことで、みんなフレディにどう接したらいいのかわからないようだ。馬鹿にすることはなくなったが、歩み寄ろうとする者もほとんどいない。今まで彼の強さを知らずに蔑んでいたことへの後ろめたさがあるのだろうか。
フレディもフレディで、自ら誰かに話しかけようとはしないし……。
私とフレディは、未だにギルド内で少し浮いている存在になっている。どうにか解決したいものだ。でも、どうすればいいものか……。
ため息を吐いていると、私の足元に何かが触れた。
驚いて下を見ると、はにわのような形をした土人形が私の足元で奇妙なステップを踏んでいる。
……これって、土魔法で作った土人形かな?
実物を見るのが初めてで、食い入るように土人形を見つめる。
へんてこな動きとなんともいえない見た目が次第に愛らしく感じるようになり、私はあっという間にその土人形に心を奪われてしまった。
――ちょっと触ってみてもいいかな? 触れたら壊れるとかないよね?
興味が湧き、恐る恐る土人形に手を伸ばしてみる。するとその瞬間に、土人形はくるりと向きを変え走り出して行った。
「あっ! 待って!」
おもわず立ち上がり土人形を追いかけようとすると、公園の入り口にひとりの男性が立っているのが目に入った。
その男性は真っ黒で大きめのローブを羽織り、黒い帽子をかぶっている。いわゆる典型的な〝魔道士の格好〟をしていた。
土人形は彼のところまで行くと、そのまま一緒に公園から去って行った。きっとあの魔道士が、土人形の造主なのだろう。
ぼーっと後ろ姿を眺めていると、突然土人形がこちらを振り返った。驚きながらも控えめに手を振ってみると、土人形が手を振り返してくれた。
――な、なんてかわいいの!
ますます私は、あの土人形に心を奪われてしまった。
両頬を押さえながらあまりの可愛さに感動していると、魔道士も一瞬だけこちらを振り返る。
その時、紫の髪の隙間から、少しだけ彼の顔を見ることができた。
少し幼さの残る中性的な顔立ち。その顔はフレディに負けないほど整っていて、しばし見惚れてしまうほどだ。
魔道士はすぐにふいっと前を向くと、またスタスタと歩き出して行った。
「……見つけた。私の師匠」
去りゆく背中に向かって、私は呟く。この瞬間、私はあの魔道士を師匠にすることに決めた。
だってそうすればまた土人形にも会えるし、なんなら土人形の作り方だって教えてもらえる!
ギルドの近くにいたってことは、ギルドに登録している魔道士とみていいだろう。でも、あんな人今日初めて見た。あまりギルドに顔を出さないのだろうか。
名前もわからないし、とにかく情報がなさすぎる。
私は彼の情報を得るために、キース マスターに会いに行くことにした。マスターは基本ギルド内にある執務室にいることが多いので、早足でギルドへと戻る。
すると、ちょうど依頼を終えたフレディと鉢合わせた。
師匠にしたい魔道士を見つけた旨をフレディに伝えると、そのまま一緒に執務室へと向かうことになった。