5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
「というか、なんでカラスのほうが楽なの? 人間のほうがいろいろ勝手がいい気もするけどなぁ」
「いちいち服着るのってめんどくさい。あとカラスになると空飛べる」
 服を着るものもめんどくさいって、どれだけめんどくさがりなんだ。でも空を飛ぶのは私も一度くらいは経験してみたい。話していて思ったけど、ルカって不思議ちゃんなのかな。
 そのあとも、ルカに聞きたいことを全部聞くことにした。どうしてここにいるのかとか、猫のこととかその他いろいろ。聞いているうちに、ルカのことをだんだん理解してきた。
 ルカはひとりでいろんな場所をあちこち彷徨う、いわゆる浮浪者だった。年齢不詳ということだけど、見た限り二十ちょっとくらいだろうか。
 浮浪中にフェルリカに辿り着き、この洞穴を見つけしばらく住処にし生活していると、足を怪我した子猫を見つけ世話をしていたようだ。
「事情はわかったけど、どうして盗みなんてしたの。普通に人間の姿で町で買い物をすればよかったでしょう」
「だってここから町遠いもん。カラスになったほうがすぐ移動できるし。あ……でもなんか今日は帰る時にいつもより動きづらかったなぁ。治ったからいいけど」
 動きづらくなった原因はマレユスさんの時魔法のせいだろう。さすがにもう効力は切れたみたい。
「でも盗みはいけないことだよ」
「俺は盗んでない。たくさん置いてあるからもらっただけだよ」
ルカは自分が悪いことをしていた自覚がないようだ。どうやって生きてきたか知らないが、ルカには常識が通じないように思えた。
「あのね、あれは売り物。商品なの。欲しい時はお金を払って買うの。私が言った〝対価〟っていうのは、この場合お金のことになる。対価を払って商品をもらう。これが世間の常識なの」
「あー……お金か。じゃあお金を誰かからもらうのが先だったか」
「もらえる人がいたの?」
「うん。その辺歩いてる人のポケットとかからもらえるよ」
「だからそれが盗みなんだってば!」
 どうしてそうなる! おもわず私は大声でツッコミをいれた。ルカは表情ひとつ変えずに首を傾げている。たぶん、今までずっと盗んだもので生計を立てていたのだろう。本人が盗みを悪いと思っていなかったことがいちばんの問題だが。
「じゃあ俺って、悪いことしてたの?」
「そうなるね」
 ルカの場合、〝知らなかった〟ということで、完全に悪人とは言い切れないが。それでもやったことは立派な営業妨害だ。
「……そっかぁ。ね。あんたの名前はなんていうの?」
 はっ! 相手に名前を聞いておいて、こっちが名乗っていなかった。
「申し遅れました。私はメイ。こっちは私の従魔のスモア」
「ガウッ」
 スモアは挨拶代わりに小さく鳴いた。
「メイ、スモア。俺はどうしたらいい? 悪いことをしたら逃げるか捕まって死ぬかって聞いたことある。……逃げるのはめんどくさいけど、死ぬのは嫌だなぁ」
 選択肢が極端な二択すぎる。ルカと話していると、だんだん頭痛がしてきた。
「ルカ、ほかにも方法はあるよ」
「……そうなの?」
「うん。教えてあげる。悪いことをしたら、謝るの。謝って許してもらうの。もちろん絶対許してもらえるなんて保証はどこにもない。でも、反省して心から謝ることが大事だよ」
「……わかった。やってみる」
 私の教えが、ルカに伝わってくれたみたい。
 ルカはいろんなことを知らなすぎる。これから教えてあげることも、聞きたいことも山ほどあるが、今は商人たちに謝罪させるのが先だ。
 もうカラスに怯える必要がないことも早く教えてあげたいし、フレディとマレユスさんに作戦が成功したことも伝えないと。
「じゃあルカを連れて町に帰ろう。もたもたしてると夜になっちゃう。ルカ、商店街まで一緒に行こう。謝る時、一緒にいてあげるから」
「ありがと。メイってチビなのに俺より大人みたい」
「……ルカが大きいのに子供すぎるだけだよ」
 立ち上がったルカの身長は百八十を悠に超えていた。フレディよりも背が高い。てか細っ! スタイルよすぎ! 前世だったらモデルができたんじゃないだろうか。
 こんな大人びた見た目をしておいて、中身は子供だなんて……ルカは私と真逆だ。
「あ、こいつも連れてっていい? 俺が離れたらどこにも行けなくて、ひとりぼっちになるから」
 満腹になりすやすやと眠っていた子猫をルカが抱きかかえた。
「うん。その子も一緒に連れて行こう」
 私が言うと、ルカはほっとした顔を見せた。
 私たちは森を抜け、町へ帰ることにした。ルカがカラスになり、どこかへ勝手に飛んで行かれたら困るので、歩いて帰ることになった。ルカは「めんどくさい」とか「そんなことしない」と愚痴をこぼしていたが、念には念を入れておかなければ。ここまで来て逃げられたらシャレにならない。
 フレディが相当がんばってくれたのか、帰り道もモンスターに遭遇することなく順調に進んでいると、前方の茂みからガサガサとなにかが動く音が聞こえた。
「! モンスターかも」
【下がっていろメイ。オレが片付ける】
 戦闘態勢になる私の前に、スモアが飛び出した。
 茂みの音が大きくなる。すると茂みから現れたのは――。
「……フレディ?」
 そこには頭に葉っぱを被り、疲れ果てた顔をしたフレディがいた。
「メ、メイか……無事だったんだな……。よかった……」
 息切れし、足元をふらつかせながらフレディはこちらへやって来る。
「私は平気よ。それよりフレディが大丈夫じゃなさそうだけど……」
「いや、平気だ。……と言いたいところなんだが、思ったより数がすごくてな。最後に大型モンスター四体に囲まれた時はヒヤッとしたよ。ポーションを使い果たして、体力を相当持っていかれた」
 見たところ怪我をしている様子はない。だが、長時間の戦闘で疲労が相当溜まっているようだ。
「待っててフレディ。すぐに回復魔法をかけてあげる」
 そう言って私が魔法をかけると、フレディは一気に元気を取り戻した。
「ありがとうメイ。助かったよ」
「ううん。フレディのサポートは私の役目だもん。フレディ、ちょっと屈んで?」
「ん? こうか?」
 私は頭についたままの葉っぱを手で掃ってあげた。実はフレディが今回の作戦でいちばんたいへんだったかも。私が受けた依頼なのに、よく頑張ってくれたなぁ。そう思い、私はフレディにちょっとしたお礼をすることにした。
「……ちゅっ!」
 フレディのおでこに軽くキスを落とす。大人の姿の私なら絶対にできないけど、この姿なら子供のじゃれ合いと思って変なふうに捉われないだろう。あと単純に、大人だったら恥ずかしくてこんなことできない。
 子供だと、不思議といつもより大胆な行動ができた。へらりと笑いながらフレディを見ると、フレディは驚いた顔で私を凝視していた。
「メ、メイ……なにを……」
「フレディ、私のためにがんばってくれたから! そのお礼だよ!」
「……メイ!」
 反応を見るに、すごく喜んでくれたみたい。感極まった様子のフレディが勢いで私を抱きしめようとした。しかし、抱きしめる前にスモアがフレディに体当たりをかました。
【調子に乗るな! こんなことでぼろぼろになって情けない! オレならピンピンで戻ってこれたぞ!】
「おい、どけスモア!」
 そのままスモアはフレディの上にのしかかる。せっかく回復したのに、これじゃあまた無駄に体力を消耗するじゃない。
「スモア、落ち着いて! スモアにもご褒美あげるから」
 私は後ろから必死にスモアに抱き着き、フレディがら引きはがした。
「スモアもありがとねっ」
 いつもみたくお腹を撫でてあげると、スモアの機嫌は治った。……ふぅ。手のかかる仲間たちだ。
「……ていうか、こいつは誰だ?」
 上半身を起き上がらせ、ルカを見ながらフレディが言う。やっとルカに気づいたようだ。
「彼はルカ。カラスの正体」
「えぇ!? 人間だったのか!?」
「詳しくはマレユスさんと合流してから話すね。今は町に戻るのが最優先だから」
 何度も説明するのはめんどくさいしね。
 ルカのことが相当気になる様子のフレディをよそに、私たちはみんなで森を抜けた。
 森の出口には、マレユスさんが待機していた。私たちのことを心配してくれたようだ。
「あ……商店街で俺になんかしたやつ」
 マレユスさんを見てルカが言った。
「はい? 僕はあなたなんて知りませんけど」
 誰だこいつというように、眉間に皺を寄せルカを睨むマレユスさん。ちょうどいいので、町に行くまでの道のりでルカのことを話すことにしよう。
< 29 / 41 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop