5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
落ちこぼれの冒険者
「うーん。まずは動かないとなぁ」
この姿になって初めて声を発してみる。耳に響く自分の声は、以前よりずいぶんと高い。
ずっとここに留まっているわけにもいかないので、どうしようかと迷っていると、近くでガサガサと草を踏む足音が聞こえた。
「……ん? 子供?」
足音の主たちはすぐに姿を現し、私を見て驚いた顔をしてそう言った。
背の高い強そうな男性と、へらへらと笑っている男性と、妖艶な女性の三人組だ。
防具や剣などを身に纏っていることから、ここは前世の日本とは違い、ファンタジー世界だと察する。
「あら。こんな小さな子が森の中にひとりでいるなんて。モンスターに襲われたりでもしたらたいへんよ。お嬢ちゃん、どうしてこんなところに?」
女性が私に話しかけてきたが、なんて答えたらいいのかわからず口をつぐむ。だって、私だってなんでここにいるのかわからないのだ。
ついでに〝モンスター〟という言葉を聞いて、先ほどの自分の考えが当たっていたことを確信する。
「……わ、わかりません」
ここは素直にわからないと答えることにした。
「わからない? お前、名前はなんていうんだ?」
女性を押しのけるようにして、強そうな男性が私の前に立ちはだかる。彼の威圧感に、おもわず体がビクッとしてしまった。
それを見て、男性は私が怖がっていると感じたのか、ケラケラと陽気な笑い声を上げた。
「はは! そんなビビんなくても大丈夫だって! 別になにも怖いことはしないさ」
威圧感は一気に消え去り、眩しい笑顔を私に向けたまま、彼は話を続ける。
「名前を聞くなら、まずは先に名乗るのが礼儀だったな。俺はグレッグ」
「俺はチャド」
「あたしはコーリーよ。よろしくね」
グレッグさんに続き、残りのふたりも私に自己紹介をした。
「俺たちは冒険者。全員が上位ランクのパーティーなんだ」
……冒険者。ランク。パーティー。前世では、ゲームの中でよく聞いたことのある単語だ。だんだんと、世界観を理解してきた。
「よし、改めて聞こう。お前の名前は?」
「え、えっと……私は……」
芽衣子という名前はいかにも日本人という感じで、このファンタジーの世界に合わない気がした。
「メイ、です」
そのため私は、メイと名乗ることにした。
「メイか。かわいい名前だな。今いくつなんだ?」
「な、七歳です」
実年齢は知らないが、水たまりに映った自分がそれくらいに見えたので、適当にそう答える。
「わかってるのはこれだけなんです。自分でも、どうしてここにいるのか、ここがどこなのかわからないんです。気が付いたら、ここで寝てて……」
「……気が付いたら勝手にここに?」
グレッグさんに言われ、私はこくんと頷いた。三人とも、悪い人には見えない。正直に話せば、私のこれからの生活の手助けをしてくれたり、ここの世界について詳しく教えてもらえるかも。
グレッグさんはしばらく黙ったまま、じぃっと私の瞳を見つめた。そして、後ろにいるふたりのところに戻り、なにかを話している。
「もしかして――」
「いや、でも――」
小声で話しているせいか、私にはところどころしか三人の会話が聞こえてこない。
なにを話しているんだろう? 首を傾げ、三人の様子を見守っていると、グレッグさんが私のところに戻ってきた。
「メイ、お前、なにか能力を持ってたりするか?」
「能力?」
「ほら、得意な魔法があったりとか、そういうのなにかないか?」
能力、魔法……。そう言われましても、試したことがないのでわからない。そもそも私はまだ子供だし、そういったことは今から身に着けていくのではないだろうか。
私が頭の中でいろいろ考えているうちに、グレッグさんは突然腕を捲り、傷跡を私に見せてきた。
「これ、さっきモンスターを倒したときに噛まれた傷なんだ」
「痛そう……」
そこまで大きな傷ではないし血は既に止まっているものの、痛々しい傷跡を間近で見て、おもわず顔をしかめる。
「これくらいなら平気さ。でも、メイならこの傷跡を癒してくれるんじゃないかと思ってね」
「……私が?」
「ああ。試しにやってみてくれないか?」
傷を癒すって――治癒魔法みたいなものだろうか。
グレッグに言われるがまま、わけもわからずに私はグレッグさんの傷跡に手をかざしてみた。すると、途端に手のひらが温かくなり、みるみるうちにグレッグさんの傷が治っていった。
それを見て、自分でも声が出ないほど驚く。こんな能力を最初から持ち合わせているなんて……。でもどうして、グレッグさんはそのことに気づいたのだろう。
「すごい。すごいぞメイ!」
治った傷を見て、グレッグさんは興奮気味に私の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。
チャドさんとコーリーさんも、〝こんなに幼いのに治癒魔法を使えるなんて〟と驚きの表情を見せ、私のことを褒めてくれた。
「メイ、この能力があれば冒険者としてやっていける。なにもわからないみたいだし、俺たちがこの国や町のことを教えてやるよ」
「え、本当ですかっ?」
「ああ。とりあえず森を出よう。町まで歩きながら、いろいろと教えてやる」
「ありがとうございますっ! グレッグさん、チャドさん、コーリーさんっ!」
感謝の気持ちを込めて、三人に深くお辞儀をした。さっそく心強い味方ができたような気がして、一安心だ。
冒険者になるつもりはなかったので、そこは少し引っ掛かるけど……今は贅沢を言っていられない。まずは暮らしていける環境を作るのが最優先だ。
「礼儀正しい子だな。よし、行こう」
グレッグさんは笑いながら、大きな手を私に差し出した。小さな手を伸ばし、その手をぎゅっと握る。
私の姿は幼女だとしても、中身は立派な大人だ。
ちらりとグレッグさんを見上げてみる。程よい筋肉質な体に、赤い髪に鋭い茶色の瞳。こんなかっこいい人と手を繋ぐなんて初めてで、なんだか緊張する。
この姿になって初めて声を発してみる。耳に響く自分の声は、以前よりずいぶんと高い。
ずっとここに留まっているわけにもいかないので、どうしようかと迷っていると、近くでガサガサと草を踏む足音が聞こえた。
「……ん? 子供?」
足音の主たちはすぐに姿を現し、私を見て驚いた顔をしてそう言った。
背の高い強そうな男性と、へらへらと笑っている男性と、妖艶な女性の三人組だ。
防具や剣などを身に纏っていることから、ここは前世の日本とは違い、ファンタジー世界だと察する。
「あら。こんな小さな子が森の中にひとりでいるなんて。モンスターに襲われたりでもしたらたいへんよ。お嬢ちゃん、どうしてこんなところに?」
女性が私に話しかけてきたが、なんて答えたらいいのかわからず口をつぐむ。だって、私だってなんでここにいるのかわからないのだ。
ついでに〝モンスター〟という言葉を聞いて、先ほどの自分の考えが当たっていたことを確信する。
「……わ、わかりません」
ここは素直にわからないと答えることにした。
「わからない? お前、名前はなんていうんだ?」
女性を押しのけるようにして、強そうな男性が私の前に立ちはだかる。彼の威圧感に、おもわず体がビクッとしてしまった。
それを見て、男性は私が怖がっていると感じたのか、ケラケラと陽気な笑い声を上げた。
「はは! そんなビビんなくても大丈夫だって! 別になにも怖いことはしないさ」
威圧感は一気に消え去り、眩しい笑顔を私に向けたまま、彼は話を続ける。
「名前を聞くなら、まずは先に名乗るのが礼儀だったな。俺はグレッグ」
「俺はチャド」
「あたしはコーリーよ。よろしくね」
グレッグさんに続き、残りのふたりも私に自己紹介をした。
「俺たちは冒険者。全員が上位ランクのパーティーなんだ」
……冒険者。ランク。パーティー。前世では、ゲームの中でよく聞いたことのある単語だ。だんだんと、世界観を理解してきた。
「よし、改めて聞こう。お前の名前は?」
「え、えっと……私は……」
芽衣子という名前はいかにも日本人という感じで、このファンタジーの世界に合わない気がした。
「メイ、です」
そのため私は、メイと名乗ることにした。
「メイか。かわいい名前だな。今いくつなんだ?」
「な、七歳です」
実年齢は知らないが、水たまりに映った自分がそれくらいに見えたので、適当にそう答える。
「わかってるのはこれだけなんです。自分でも、どうしてここにいるのか、ここがどこなのかわからないんです。気が付いたら、ここで寝てて……」
「……気が付いたら勝手にここに?」
グレッグさんに言われ、私はこくんと頷いた。三人とも、悪い人には見えない。正直に話せば、私のこれからの生活の手助けをしてくれたり、ここの世界について詳しく教えてもらえるかも。
グレッグさんはしばらく黙ったまま、じぃっと私の瞳を見つめた。そして、後ろにいるふたりのところに戻り、なにかを話している。
「もしかして――」
「いや、でも――」
小声で話しているせいか、私にはところどころしか三人の会話が聞こえてこない。
なにを話しているんだろう? 首を傾げ、三人の様子を見守っていると、グレッグさんが私のところに戻ってきた。
「メイ、お前、なにか能力を持ってたりするか?」
「能力?」
「ほら、得意な魔法があったりとか、そういうのなにかないか?」
能力、魔法……。そう言われましても、試したことがないのでわからない。そもそも私はまだ子供だし、そういったことは今から身に着けていくのではないだろうか。
私が頭の中でいろいろ考えているうちに、グレッグさんは突然腕を捲り、傷跡を私に見せてきた。
「これ、さっきモンスターを倒したときに噛まれた傷なんだ」
「痛そう……」
そこまで大きな傷ではないし血は既に止まっているものの、痛々しい傷跡を間近で見て、おもわず顔をしかめる。
「これくらいなら平気さ。でも、メイならこの傷跡を癒してくれるんじゃないかと思ってね」
「……私が?」
「ああ。試しにやってみてくれないか?」
傷を癒すって――治癒魔法みたいなものだろうか。
グレッグに言われるがまま、わけもわからずに私はグレッグさんの傷跡に手をかざしてみた。すると、途端に手のひらが温かくなり、みるみるうちにグレッグさんの傷が治っていった。
それを見て、自分でも声が出ないほど驚く。こんな能力を最初から持ち合わせているなんて……。でもどうして、グレッグさんはそのことに気づいたのだろう。
「すごい。すごいぞメイ!」
治った傷を見て、グレッグさんは興奮気味に私の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。
チャドさんとコーリーさんも、〝こんなに幼いのに治癒魔法を使えるなんて〟と驚きの表情を見せ、私のことを褒めてくれた。
「メイ、この能力があれば冒険者としてやっていける。なにもわからないみたいだし、俺たちがこの国や町のことを教えてやるよ」
「え、本当ですかっ?」
「ああ。とりあえず森を出よう。町まで歩きながら、いろいろと教えてやる」
「ありがとうございますっ! グレッグさん、チャドさん、コーリーさんっ!」
感謝の気持ちを込めて、三人に深くお辞儀をした。さっそく心強い味方ができたような気がして、一安心だ。
冒険者になるつもりはなかったので、そこは少し引っ掛かるけど……今は贅沢を言っていられない。まずは暮らしていける環境を作るのが最優先だ。
「礼儀正しい子だな。よし、行こう」
グレッグさんは笑いながら、大きな手を私に差し出した。小さな手を伸ばし、その手をぎゅっと握る。
私の姿は幼女だとしても、中身は立派な大人だ。
ちらりとグレッグさんを見上げてみる。程よい筋肉質な体に、赤い髪に鋭い茶色の瞳。こんなかっこいい人と手を繋ぐなんて初めてで、なんだか緊張する。