5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
大切なもの
フレディと手を繋ぎながら、私は出口へと向かっていた。
せっかく宝箱を見つけたのに、フレディはいらないと言った。もしかしたら〝思い出の石〟が中に入っていたかもしれないのに。
もったいないとは内心思ったが、これはフレディのSランク昇格試験だ。本人がいらないと言うのだからいいのだろう。それに――フレディが正気に戻って本当によかった。
尋常じゃない苦しみ方だったから、あのまま後悔の中に取り込まれてしまう気がしてすごく不安だった。だから、私の声が届いた時はすごく安心した。
結果的に、フレディはずっと苦しんでいた過去から解放されたようだ。ちらりと見上げるフレディの表情は、以前より清々しそう。
私にはフレディの後悔を見ることはできなかったけど、あの様子からして、きっと昔の仲間たちがフレディの前に姿を現していたのだろう。私の前に昔の自分が現れたみたいに。
……フレディも私と芽衣子のように、仲間たちと笑顔でお別れできていたらいいな。フレディは仲間たちに恨まれていると思っていたみたいだけど、私は絶対そんなことはないと思う。フレディは理由もなく仲間を見捨てるような人じゃない。それは、昔の仲間たちも知っていたはずだと私は思った。
この部屋で見たものが本物なのか偽物なのか、知る術はない。あの時芽衣子の手を取っていたら、前世に戻っていたのか……はたまたこの空間に取り込まれていたのか。真実はなにもわからない。ただひとつ言えることは、私もフレディも、抱えていた後悔を乗り越えることができたということだ。それに今回のことで、より一層フレディとの絆が深まった気がする。
あとはこのまま、仲良くふたりで出口を抜けるだけ!
固く手を握り直し、光のほうへ向かっていると、その光があるところからなにかが走ってくるのが見えた。それもかなりのスピードでこちらに向かってくる。
【メイ! 大丈夫か!】
頭に突然、スモアの声が響いた。
「……スモア!」
【メイ!】
光から走ってきた者の正体はスモアだった。
スモアは私に飛びかかり、勢いで倒れた私の顔をぺろぺろと舐め始める。
あ。フレディと手離れちゃった……。案の定、フレディは不満そうな顔を浮かべていたが、スモアはそんなことお構いなしだ。
【無事でよかった。メイの魂が一瞬消えかかったのがわかって血の気が引いたぞ】
【え、私そんなたいへんなことになってたの?】
【ああ。オレは距離が離れ会話が不可能となっても、契約者の魂の動きはわかるんだ。今は正常に戻っている。怪我もないようで安心した】
魂の動きがわかるってことは、私が死にかけていたりしたら、スモアにもそれが伝わるってことだろうか?
芽衣子の手を取りかけた時、私の魂は芽衣子に戻ろうとして、消えかけたのかもしれない。そのことを察知したスモアが私を追いかけてここまで来たんだろうけど……。
【スモア、どうやってここに入ったの? スモアは結界に邪魔されて、入れなかったはずでしょ?】
【破壊した】
【へ?】
【結界を破壊した】
「えぇぇっ!? 結界を破壊した!?」
驚きすぎて、無意識に声を発しオウム返しをしてしまった。
「なっ! 結界を破壊しただって!?」
私の声に反応して、フレディも同じ反応をする。
破壊って……結界って、そんな簡単に壊せるものなの!?
【メイのピンチだったんだ。手段は選んでいられないだろう】
【スモアって、思ったよりやることが大胆なんだね……】
【なんでもやるぞ。主のためならな。さあ、早く戻ろう。ここは長居するような場所ではない】
そう言って、スモアは首を振り、私に自分の背中に乗るよう合図した。
私はおとなしくスモアに従い背中に乗ると、スモアはまた猛ダッシュをして今度は出口まで走り出した。
「おい! 先に行くな! 俺も乗せてくれていいんだぞスモア!」
【お前は自分で走れ!】
「自分で走れ、だって! がんばってフレディ!」
私は振り返り、必死にこちらへ走って来るフレディに声援をかけ続けた。
【メイ、出口だ!】
スモアに言われ前を向くと、光の眩しさにおもわず目を閉じる。
次に目を開けると、〝後悔の部屋〟の入り口でもある壁の向こう側に戻って来ていた。ちゃんとマレユスさんとルカの姿もある。
「……メイ! よかった! 無事だったのですね」
「マレユスさんっ!」
一目散に私のもとへ駆け寄るマレユスさん。私はスモアの背中から降りて、マレユスさんに飛びついた。
マレユスさんはそんな私をしっかりと受け止めてくれて、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。ちょっとのあいだ会っていなかっただけなのに、また会えたことをとてもうれしく感じた。
「あれ……フレディは? あ、いた」
ルカがフレディの行方を気にしていると、ちょうどいいタイミングでフレディが壁から出て来た。
「はぁ……戻って来れた……ってマレユス! メイと抱き合ってなにしてるんだ!」
息切れしながら戻ってきたフレディは、私とマレユスさんを見て叫ぶ。
「なにって感動の再会ですよ。それに、飛びついてきたのはメイのほうですよ?」
「くっ……メイからだと……!」
悔しがるフレディと、勝ち誇った笑みを浮かべるマレユスさん。ふたりのよくある光景をぼーっと見ていたルカが、なにを思ったのか無言でフレディの前に立った。
「ん」
そして両手を広げたルカを見て、フレディは困惑気味だ。
「ルカ、いきなりどうしたんだ?」
「フレディにも感動の再会ってやつしてあげようと思って。俺でよければ抱きしめるよ?」
「い、いや……気持ちだけ有難く受け取っておくよ」
至って真面目な顔をして言うルカに、フレディはたじたじだ。
私とマレユスさんは、そんなふたりのおもしろいやり取りを見て、顔を見合わせて笑った。スモアも鼻を鳴らして笑っている。……あれは完全に、フレディを馬鹿にした笑いだろう。
せっかく宝箱を見つけたのに、フレディはいらないと言った。もしかしたら〝思い出の石〟が中に入っていたかもしれないのに。
もったいないとは内心思ったが、これはフレディのSランク昇格試験だ。本人がいらないと言うのだからいいのだろう。それに――フレディが正気に戻って本当によかった。
尋常じゃない苦しみ方だったから、あのまま後悔の中に取り込まれてしまう気がしてすごく不安だった。だから、私の声が届いた時はすごく安心した。
結果的に、フレディはずっと苦しんでいた過去から解放されたようだ。ちらりと見上げるフレディの表情は、以前より清々しそう。
私にはフレディの後悔を見ることはできなかったけど、あの様子からして、きっと昔の仲間たちがフレディの前に姿を現していたのだろう。私の前に昔の自分が現れたみたいに。
……フレディも私と芽衣子のように、仲間たちと笑顔でお別れできていたらいいな。フレディは仲間たちに恨まれていると思っていたみたいだけど、私は絶対そんなことはないと思う。フレディは理由もなく仲間を見捨てるような人じゃない。それは、昔の仲間たちも知っていたはずだと私は思った。
この部屋で見たものが本物なのか偽物なのか、知る術はない。あの時芽衣子の手を取っていたら、前世に戻っていたのか……はたまたこの空間に取り込まれていたのか。真実はなにもわからない。ただひとつ言えることは、私もフレディも、抱えていた後悔を乗り越えることができたということだ。それに今回のことで、より一層フレディとの絆が深まった気がする。
あとはこのまま、仲良くふたりで出口を抜けるだけ!
固く手を握り直し、光のほうへ向かっていると、その光があるところからなにかが走ってくるのが見えた。それもかなりのスピードでこちらに向かってくる。
【メイ! 大丈夫か!】
頭に突然、スモアの声が響いた。
「……スモア!」
【メイ!】
光から走ってきた者の正体はスモアだった。
スモアは私に飛びかかり、勢いで倒れた私の顔をぺろぺろと舐め始める。
あ。フレディと手離れちゃった……。案の定、フレディは不満そうな顔を浮かべていたが、スモアはそんなことお構いなしだ。
【無事でよかった。メイの魂が一瞬消えかかったのがわかって血の気が引いたぞ】
【え、私そんなたいへんなことになってたの?】
【ああ。オレは距離が離れ会話が不可能となっても、契約者の魂の動きはわかるんだ。今は正常に戻っている。怪我もないようで安心した】
魂の動きがわかるってことは、私が死にかけていたりしたら、スモアにもそれが伝わるってことだろうか?
芽衣子の手を取りかけた時、私の魂は芽衣子に戻ろうとして、消えかけたのかもしれない。そのことを察知したスモアが私を追いかけてここまで来たんだろうけど……。
【スモア、どうやってここに入ったの? スモアは結界に邪魔されて、入れなかったはずでしょ?】
【破壊した】
【へ?】
【結界を破壊した】
「えぇぇっ!? 結界を破壊した!?」
驚きすぎて、無意識に声を発しオウム返しをしてしまった。
「なっ! 結界を破壊しただって!?」
私の声に反応して、フレディも同じ反応をする。
破壊って……結界って、そんな簡単に壊せるものなの!?
【メイのピンチだったんだ。手段は選んでいられないだろう】
【スモアって、思ったよりやることが大胆なんだね……】
【なんでもやるぞ。主のためならな。さあ、早く戻ろう。ここは長居するような場所ではない】
そう言って、スモアは首を振り、私に自分の背中に乗るよう合図した。
私はおとなしくスモアに従い背中に乗ると、スモアはまた猛ダッシュをして今度は出口まで走り出した。
「おい! 先に行くな! 俺も乗せてくれていいんだぞスモア!」
【お前は自分で走れ!】
「自分で走れ、だって! がんばってフレディ!」
私は振り返り、必死にこちらへ走って来るフレディに声援をかけ続けた。
【メイ、出口だ!】
スモアに言われ前を向くと、光の眩しさにおもわず目を閉じる。
次に目を開けると、〝後悔の部屋〟の入り口でもある壁の向こう側に戻って来ていた。ちゃんとマレユスさんとルカの姿もある。
「……メイ! よかった! 無事だったのですね」
「マレユスさんっ!」
一目散に私のもとへ駆け寄るマレユスさん。私はスモアの背中から降りて、マレユスさんに飛びついた。
マレユスさんはそんな私をしっかりと受け止めてくれて、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。ちょっとのあいだ会っていなかっただけなのに、また会えたことをとてもうれしく感じた。
「あれ……フレディは? あ、いた」
ルカがフレディの行方を気にしていると、ちょうどいいタイミングでフレディが壁から出て来た。
「はぁ……戻って来れた……ってマレユス! メイと抱き合ってなにしてるんだ!」
息切れしながら戻ってきたフレディは、私とマレユスさんを見て叫ぶ。
「なにって感動の再会ですよ。それに、飛びついてきたのはメイのほうですよ?」
「くっ……メイからだと……!」
悔しがるフレディと、勝ち誇った笑みを浮かべるマレユスさん。ふたりのよくある光景をぼーっと見ていたルカが、なにを思ったのか無言でフレディの前に立った。
「ん」
そして両手を広げたルカを見て、フレディは困惑気味だ。
「ルカ、いきなりどうしたんだ?」
「フレディにも感動の再会ってやつしてあげようと思って。俺でよければ抱きしめるよ?」
「い、いや……気持ちだけ有難く受け取っておくよ」
至って真面目な顔をして言うルカに、フレディはたじたじだ。
私とマレユスさんは、そんなふたりのおもしろいやり取りを見て、顔を見合わせて笑った。スモアも鼻を鳴らして笑っている。……あれは完全に、フレディを馬鹿にした笑いだろう。