5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
「それに僕はあなたより、メイの話のほうが聞きたいですね。メイはあの部屋でなにがあったのですか? こんなに幼いのに、部屋に入れるほどの後悔を抱えていたということですよね」
「えっ。私? 私は……」
 楽しそうに笑うフレディを見ながらにこにこしていると、突然マレユスさんに矛先を向けられてしまった。
「俺も聞いていいなら聞きたい。それに、メイってここに来る前の記憶がなかったよな? なにか思い出せたりはしたか?」
 どうしよう。部屋に入れた以上、なにもなかったとは言えないし……そうだ! 
「私はね、一回でもグレッグの仲間になったことを心の奥でずーっと後悔してたの! でも結果的に、それでフレディやみんなと会えたんだってわかって乗り越えられたよ! 記憶は残念ながら、なにも思い出せなかったの……」
 咄嗟に考えた嘘をついた。前世の自分と会ったなんて言えるはずがない。
「……そうか。あのことをそんなに後悔してたのか。だけど、今のメイの仲間は俺たちだ。二度とメイに後悔はさせないからな」
「メイも大変だったのですね。まだ七歳なのにこんなに大人びているのは、過去にいろんな経験をしたからかもしれません」
 それはあながち間違ってはいない。
 憐憫の眼差しを向けられ、いたたまれない気持ちになった。フレディは正直に話してくれたのに、ごめんなさいという思いでいっぱいだ。
 でも私はメイとして生きると決めたから、メイとしてみんなのそばにいると決めたから。転生者だってことは、やっぱり内緒にしておこう。
「てかさ、結局秘宝は手に入ったの? 壁には後悔を乗り越えたら、宝がもらえるみたいなこと書いてあった。俺はそれが秘宝の可能性が高いと思ったんだけど」
 ルカに言われ、忘れていた秘宝の存在と、壁の記述を思い出した。
「あー……そのことなんだけどさ、秘宝はあきらめたんだ。スモアが迎えに来たこともあって、悠長に宝を探してる暇もなかったし」
 後ろ頭を掻きながら、気まずそうにフレディは答えた。
帰り際に見つけた宝箱の中身が〝思い出の石〟だったなら、見過ごしたってことになる。目の前にあった宝をスルーしたなんて言ったら、秘宝のために着いて来てくれた仲間に悪いと思ったのだろう。
「では、Sランク昇格試験は不合格ということですか」
「そうなるな。でも、秘宝より大切なものを見つけられたから、俺はそれでいいんだ」
 フレディは私を見て微笑んだ。……なんだろう。ちょっと照れくさい。 
「あ! もうひとつ大事な話があるのを忘れてた!」
〝後悔の部屋〟での話が一段落ついたところで、フレディにはまだ話し足りないことがあったようだ。
「俺、あの部屋でメイに〝大人になったらフレディと結婚する〟って言われたんだ!」
「ちょっ、フレディ!?」
 腕を組みながら、鼻高々にフレディは言う。私は慌ててフレディの口を塞ごうとしたが、身長が足らず届かない。
あの時のフレディは、私の瞳にはまるで王子様のように映って――なんというか、勢いで言ってしまっただけだ。それに、こんな話みんな興味ないはず――。
「どうしてそんな大事なことを黙っていたのですか!? メイ、本気ですか? 僕が許すとでも!?」
「え、えーっと……落ち着いて? マレユスさん」
 フレディの過去を聞いた時よりも、感情的になっているのはどうしてなのか教えてください。
「じゃあ俺はメイとフレディの子供になりたいなー」
「ルカ、意味わからないこと言わないで」
 こんなに大きくて手のかかる子供はいりません。
 ルカに呆れていると、後ろからものすごい殺気を感じた。振り返ると、スモアがフレディを睨みつけているではないか。
 今まで静観していたスモアが、助走をじゅうぶんにつけてフレディへ突進する
「ガルルルルル……ッ!」
唸り声と同時に渾身の一発をフレディに食らわせると、フレディはその場に倒れこんだ。
【お前にメイはやらん!】 
 まるで父親のようなセリフだ。私のちょっとした一言が、こんなプチ騒動を起こしてしまうとは。
【スモア、私はお嫁に行かないから大丈夫だよ】
 倒れているフレディは自業自得なので、まずはスモアを宥めるのを優先だ。
【本当か? この先もオレの主でいてくれるか?】
【もちろん! スモアがいやって言わない限りは、ずっと一緒だよ】
 前世では結婚どころか、ろくに恋愛もしないまま終わってしまった。今世ではドキドキするような恋愛をしたいけど、それはもう少し大人になってからでいいかな。
「フレディ、ほら、起きてっ」
 倒れたままのフレディを誰も助けようとしないので、私は彼のもとへ駆け寄り手を差し伸べた。
「ありがとうメイ。……ここまで来てくれたのに、宝ひとつも持って帰れなくてごめんな」
 私の手を取りながら、フレディは起き上がる。
「ううん。そんなことより、みんなで無事に一緒に帰れるのがいちばんうれしいよ! ねっ! みんな!」
 私が笑いかけると、みんなも笑顔を返してくれた。
「そうだな。それじゃあ連帯責任ってことで――迷宮を崩壊させたことをみんなで謝りに行くか」
 私たちは横一列になり、オレンジの空の下を歩き出した。私の初めての迷宮探索は、こうして終わりを告げた。
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