5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
 三人は町まで歩きながら、私にいろんなことを教えてくれた。
 ここは〝フェルリカ王国〟という国で、私たちがいた森は、王都からは離れた町の近くにある森だったよう。三人はモンスター討伐の依頼を受け、あの森にいたらしい。

「メイは行く当てもないんだよな?」
「はい……知り合いもいないので」
「だったら、俺たちと同じ冒険者ギルドに登録しておけばいい。ギルドに登録すれば自ずと知り合いも増えるし、俺たちが近くで面倒を見ることだってできる。住む場所が正式に見つかるまで、俺たちの暮らす家にいてもいいぞ。ちょうど一部屋余ってるしな」
「えぇ……! なにからなにまで……! みなさん、私、このご恩は忘れませんっ!」

 グレッグさんの提案のお陰で、住む場所にも困らなくなった。なんとも幸先のいいスタートに顔が緩む。最初にこんないい人たちに出会えたのは、かなり運がよかったと言えるだろう。前世では受けたことのない優しさに、心がじーんと温かくなるのを感じた。
 町に着き、三人に連れられて冒険者ギルドとやらに到着する。
 中に入ると、優しそうな顔の、髭を生やしたひとりのおじさんが立っていた。

「お、キースが受付にいるなんてめずらしいな」
「受付嬢たちは今日は休みでな。で、依頼はうまくいったのか?」
「ギルドマスターってのも大変だな。依頼に関しては当たり前だ。俺たちを誰だと思ってる」

 おじさんとグレッグさんは楽しそうに世間話をしている。ギルドマスターと呼ばれていることから、この人がこのギルドの総まとめ役といったところだろう。

「……ん? その子は? 見かけない子だなぁ」
 受付の台で隠れていた私をやっと見つけたのか、おじさんは身を乗り出しながら言った。

「この子はメイ。森で会ったんだ。なんだか話を聞くといろいろわけありっぽくてね。行く当てもないっていうから、しばらく面倒見ようかと思って」
「グレッグたちがか!?」
「そうさ。別に問題ないだろう」
「問題はないが……お前たちがそんなことを考えるのが意外でな」

 ……なにが意外なんだろう? おじさんの言ったことが、私には理解できなかった。

「それに、この子は幼いのに治癒魔法を使えるんだ。だから、このギルドに登録したいんだけどいいよな?」
「治癒魔法を? それはすごい才能だな。まだこんなに小さいのに。……私は構わないが、お嬢ちゃんもそれでいいのか?」
「はい。登録おねがいします」

 先ほどグレッグさんから聞いた話によると、冒険者として依頼をこなせば報酬がもらえるとのこと。
私は最初はそれでお金を稼いで、ある程度大人になるまでに村へ降り、そこで家を借り小さな店でも開いて、念願のスローライフを満喫しようと考えたのだ。

「本人の望みなら、登録してあげよう。私はギルドマスターのキースだ。メイちゃん、これから頑張るんだぞ」
「はいっ! キースマスター!」
「ははっ! 元気のいいかわいい子だ。このギルドのアイドルになるかもしれないなぁ」

 マスターは冗談っぽく笑いながらそう言った。前世の姿のままの私だったら、こんなこと言ってもらえなかっただろう。毎日仕事三昧で自分を磨く余裕などなかったから、すっぴんで髪もボサボサだったし……。でも今は違う。なんの手入れもせずともつやつやで卵のような肌に、サラサラの髪。子供って、なんだか最強な気がしてきた。
 登録はスムーズに終えることができた。私の登録が終わると、すぐにグレッグさんがこんなことを言い出した。

「メイ、俺たちとパーティーを組もう」
「私がグレッグさんたちと? でも私、登録したばかりでランクはいちばん下だし……」

 ありがたい話だが、私が入ることにより、高ランクのグレッグさんたちの足を引っ張る気がした。

「気にすることはない。逆に、ランクが低いのだから、俺たちと組んだほうが安全じゃないか。それに、俺たちは最近聖女がパーティーから外れちまって、治癒魔法を使えるやつがいなくて困ってたんだ。メイの力を借りることができるなら俺たちも助かる。どうだ?」
「そ、そういうことなら……」
 話を聞くと、お互い悪くないような気がして、私はグレッグさんの申し出を受けることにした。
「グレッグ、メイちゃんは初心者だ。危険な依頼に連れて行くのはやめるんだぞ。モンスター討伐なんかは特にだ」
「はいはい。わかってますよー」

 私たちのやり取りを聞いていたマスターが、険しい顔をしてグレッグさんにそう言うが、グレッグさんは軽く受け流すような返事をしていた。

「じゃあ、今日は家に帰るか。メイも疲れただろうし、ゆっくり飯でも食おう」
「ご飯……!」

 すっかりとご飯のことを忘れていたが、グレッグさんに言われた途端、急激にお腹が空いてきた。

「はははっ! メイは腹が減ってるんだな。つーことで、今日はもう帰ることにするよ。じゃあな、マスター」

 こうして、私たちはギルドを後にした。
 グレッグさんたちが住んでいる家に到着し、コーリーさんがスープとパンをご馳走してくれた。コーリーさんに一緒にお風呂に入ることを提案されたが、いくら見た目が子供でも、誰かに裸を見せることに恥ずかしさがあったので丁重にお断りさせてもらった。すごく残念がられて、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
 用意された部屋は綺麗で、ふかふかのベッドまであった。
 立てかけてある鏡を見て、自分の姿を再度確認してみる。
 鎖骨くらいまでの長さの、色素の薄いミルクティー色の髪に、まんまるで大きな金色の瞳。体は思った通り小さい。しかし、幼いながらに、とても可愛らしい顔立ちであることがわかった。自分で言うのもアレだが、将来どう成長するかがすごく楽しみだ。今世では、前世でできなかった自分磨きをするのも、楽しみのひとつになるかもしれない。

 転生して一日目だというのに、私はすっかりとこの世界と、メイとしての自分を受け入れられていた。むしろ、これからどんな生活が待ち受けているのか、わくわくしているほどだ。

「よーし。まずは早くランクを上げて、お金をいっぱい稼ぐぞぉ……」

 将来ラクをするために、今ががんばりどきだ。
 ベッドの上で、ひとり気合を入れていると、なんだか眠くなってきた。

「――の可能性があるだろ。だったら、手の内に置いといて損はない」
「コーリーがさっさと確認しないからいけないんだぞ」
「だってあの子、子供のくせに隙がないのよ」

 向かいの部屋から、三人の話し声が微かに聞こえてくる。なんの話だろ……。また、森のときみたいに内緒話だろうか。
 なにを話しているのか気になるものの、眠気に勝つことができず、私はそのまま深い眠りについた。
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