5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
 ……俺に助けを求めるどころか、俺を助けようとしていた。
 武器もなにも持たず、ひとりで森を歩くのは危険だ。広い森で迷子にでもなったら、捜索も難航になる。
 すぐに女の子を追いかけて、一緒に町に帰ってあげないと。
『でも――お前と一緒にいたら、あの子まで笑いものにされるんじゃないか?』
『モンスターが出ても守ってあげられないお前が、あの子を助けるなんてできるのか? 万年Fランク冒険者のくせに』
 もうひとりのネガティブな俺が、耳元でそう囁く声が聞こえる。
「……できる。だって……二年前に失ったものを、俺はまた、見つけた気がするんだ」
 ――俺には今、守りたいと思う人がいる。
 会ったばかりの見ず知らずの俺を、小さな体ひとつで助けようとしてくれた。見えない傷を、癒そうとしてくれた。
俺は、あの子を守りたい。
 そうだ。俺は家族を、仲間を、国を――いろんなものを守りたくて、剣士になったんじゃないか。
 俺は立ち上がり、女の子を追いかけた。
 危険な目に遭っていないことを願いながら、森の中を全速力で駆け抜ける。
「きゃあっ!」
 近くで叫び声が聞こえた。
 声のするほうへ走ると、女の子がモンスターを前に腰を抜かしているのが見えた。
 あれは……キングウルフ!? ブラクウルフは成長する前は雑魚といえるが、大人になると大きさも狂暴さも増し、途端に上級レベルのモンスターと化す。
 牙は鋭く、あの牙で噛まれると命の危険もある。そのため、大人になる前に討伐するのが基本だ。最近見かけていなかったが、キングウルフがまだこの森に潜んでいたとは。
 あの子を守るためには――俺が倒すしかない!
 キングウルフは大きく口を開け、女の子に飛びかかる。
 俺は間一髪のところで女の子を腕に抱き、キングウルフの攻撃から避けることに成功した。
「ぎんぱつ、さん……?」
 俺を見た女の子の第一声はそれだった。
 銀髪さんって……見たままの呼び名に笑いそうになる。
「大丈夫か?」
「だいじょぶ、です……」。
「そうか。よかった。……っ!」
 無事だったことに安堵していると、急に右肩の痛みに気づく。
 どうやら、さっき女の子を庇ったときに避けきれず肩を噛まれてしまったようだ。助けることに夢中で、今の今まで気づかなかった。
 左手で肩を押さえると、べったりと血がついた。……これはまずい。さっさと倒さないと、俺の肩がもたないだろう。
「その傷! 私のせいで……!」
「違う。君のせいじゃない。それより、少し離れたところにいてくれないか。今から俺は……こいつを倒さなくちゃならないから」
 俺の心配をする女の子に、精一杯かっこをつけてそう言ってみせる。
 口を開け、立派な牙を見せつけてくるキングウルフを前に、俺は剣を構えた。
 その時、久しぶりな感覚が俺を襲う。
 ――全然怖くない。むしろ、体に力がみなぎってくるように感じる。
「君にはお礼を言わないといけないな」
「え?」
 守りたいものがある俺は、こんなにも強かったのか。
 彼女は、それに気づかせてくれた。
「傷は癒えた。ありがとう」
 女の子にそう言うと、俺は目の前の敵に全神経を注いだ。
 そして、襲い掛かってきたキングウルフに、思い切り剣を振りかざした。するとキングウルフはその場に倒れた。
 ――仕留めた!
 二年ぶりの討伐成功。剣を振るったときに感じた重みが懐かしい。
「すごいです! ぎんぱつさん!」
 キングウルフを倒した余韻に浸っていると、女の子が俺に駆け寄ってきた。
 さっきよりも輝きを増した瞳で、満面の笑みを向けられると、急に緊張の糸がふつりと切れた。それより、いつまで俺のことを銀髪さんと呼ぶつもりなんだろう。
「……フレディだ」
「……ふれ?」
「フレディ。俺のなま……え……」
 言っている最中に立ち眩みがして、俺の体は地面へと倒れて行く。
 ――さすがに、無茶しすぎたかもな。
 大けがを負った肩を使い、激しく動いたせいで風邪も悪化している。
意識が朦朧としてきて、息が苦しい。
 待ってくれ。あとは、無事にこの子を町へ帰すだけなんだ。もう少しだけ動いてくれ。
 俺は、この子を助けたいんだ……!
 そう強く思った瞬間、瞼の向こうがやけに眩しく感じた。そして、俺の意識は完全に途切れた。

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