【短編】たぶん、その響きだけで。
誰が呼ぶ
「ねえ、おばあちゃん。ひとは大人になったら、みんなお星さまになるってほんとう?」
少女が尋ねる。
彼女の瞳には、多種多様の星たちが一面に広がっている。
折り紙の星、星柄のマグカップ。
その物こそ高価なものではないけれど、生まれて4年と経たない小さな彼女の世界を彩るには充分な輝きだった。
「わたし、お星さまだいすき。大きくなったら、わたしもなれる?」
問いかける。返事はない。
おばあちゃん、ともう一度呼んで、腰かけるその人の膝の方へ回る。
伏せられた目。穏やかに結ばれた口元。
「おばあちゃん、おばあちゃんもお星さま、すきなんでしょ?わたし、おそろいなのね、うれしいの」
小さな少女の手のひらが重なって、柔らかな皺がきゅっと深まる。
少女はその人の手が好きだった。
暖かな両手で頬を包まれると、世界中のしあわせを手に入れたような気持ちになれた。
「おばあちゃん、」
その人を呼ぶ。
この世にそう呼ばれるひとはたくさん存在するけれど、少女にとっては唯一無二の特別な存在を意味する響きだ。
「おばあちゃん、まだ、ねてるの?」
声を掛ける。
その穏やかそうな、満ち足りた微笑みは動かない。
「おばあちゃ……」
───カタン。
握っていたその手を揺り動かした瞬間、握られていた何かが落ちた。
少女はそれを拾い上げる。
透明なガラスのような星の中に、揺れると光る細かな粒がたくさん詰まったストラップだ。
「……きれい……」
初めて見るその星に、少女の心が奪われる。
光に透かして見上げると、それは一層輝きを増す。
なぜそれを持っているのか、少女には分からない。
けれどそれが大事なものであることは分かって、彼女はその人の手とストラップの星を一緒に握りこんだ。
小さな手のひらで、ぎゅっと、大切に。
「おばあちゃん。おばあちゃんの大事はね、わたしも大事なんだよ」
その人の膝に頭を乗せる。
そうするといつも頭を撫でてくれるのだ。
そうして、優しく名前を呼んでくれる。
「星名……」
「!」
ふわりと聞こえたその人の声に、少女は顔を上げる。
その人の目は、変わらず伏せられたままだ。
「せなだよ、おばあちゃん。おきたのっ?」
もう一度声を掛ける。
やはり返事はない。
「……夢、みちゃったのかな」
もう一度、頭を膝に付ける。
目を閉じて、思い描いた。
おばあちゃんが起きたら、一緒になにをして遊ぼう。
ほんを読んでもらおうかな。
そうだ、その前に、このキーホルダーのおはなしを聞かなくちゃ。
わくわくしながら、瞼が重くなっていく。
ストラップがきらり、少女の視界の端で揺れた。