錬金術師のお姫様
「──かっこいい~っ! このロキを紹介してる文もそうだけど、挿し絵もロキの特徴を捉えていて凄く素敵……! この髪の毛の表現なんて一本一本が繊細だし、瞳の色も本当に内側から輝いているみたい……! 今度お父様にこの絵を描いた絵師を紹介してもらって、買い取らせてくれないか交渉してみようかしら。ううん、それより新しく依頼するのも良いかもしれない。だって小さな絵だったらいつでも肌見離さず持ち歩けるわっ」

 うっとりと呟きながら読んでいた本(サウザグルス史)を閉じる少女の名前はサクラ・ジグドル・リーベ・ヴァルシュ。サウザグルス(この国)の第二王女だ。
 クリームイエローのナイトドレス姿で翠色の夢見る瞳を潤ませながらサウザグルス史()を抱きしめている。

 黄金をそのまま溶かしたような金の髪、澄んだエメラルドの瞳、なめらかな真珠色の肌。その外見から王女は『サウザグルスの動く宝石人形』と謳われていた。


「あーもう! 本当に、ロキ(推し)が尊い! 尊すぎて、ヤバい。推しの顔見るだけでご飯が進む。推しの存在が元気をくれる。今日も公務を頑張れるっっ。もし許されるならロキを模したお人形を棚一面に並べたいし、等身大絵画だって飾りたい……!」


 ──もっとも、サクラは元来の気さくでお転婆な性格に加え、異世界人(日本人)であった前王妃(祖母)の影響を受けて外見からは想像できない少々ユニークな性格であった。そのおおらかさごと民に愛されてはいるのだが。

「おばあ様が言ってたアレ、なんだったかしら。キンブレ? 七色に光って愛しい人(推し)への愛を表現できるっていう魔法の棒。今度それもロキ相手に振ってみたいわ。おばあ様に構造を詳しく聞いて錬金術で作れないか試してみなきゃ。あと『オタ芸』っていう愛の舞いも習得したいし」

 後日、はぁはぁと荒い息を吐いた孫に興奮気味に光る棒と愛の舞いのことを聞かれた前王妃は「自分のオタクの血が……っ」と頭を抱えることだろう。

「……っと、本の中のロキに夢中になってる場合じゃなかった。あと5分で夜の10時。あの薬(・・・)を作り始めてから72時間。最後に『アレ』を入れれば遂に究極の媚薬が完成する……!」

 稀代の錬金術師であった前王妃。
 彼女の影響を受けてサウザグルスの王族は幼少の頃から錬金術を学ぶ風習があった。その術は、今なお豊かに発展し続けるこの国の大きな武器になっている。
 そして中でもサクラの才能はずば抜けていて、前王妃と並んで吟遊詩人に語られるほどだ。

「もう、本当に『アレ』を手に入れるの苦労したんだから……っ」

 ぼやきながら彼女がベッドの下から蔦模様の細工が美しい金色の宝石箱を取り出す。色とりどりの石が付いた蓋を開けると、中には水晶で出来た瓶が収められていた。
 瓶の中身の液体は無色透明でトロリと揺れる。

「ココにこの、最後の材料──ロキのまつ毛を入れれば色が変わるのよね?」

 たぐいまれなる錬金術の才能を持った王女サクラ。
 彼女はその能力と知識と今までの人生の全経験を活かして、飲んだものを虜にする媚薬を作成しようとしていた。
 全てはそう、愛しい人(ロキ)への恋心を叶えるために。

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