哀しみエンジン
脱出
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2学年も後半に差し掛かり、講義の無い空きコマが出来てきた。
暇を持て余し、学内を徘徊していたとき、知っている後ろ姿を見かけた。
正直、声を掛けようか、迷う。
始めて顔を合わせた、あの日以来、一度も関わらなかったから。
でも、もう一度、見たくなった。
あの日の柔らかい表情を。
好きなことから離れて、荒んだこの心を満たしたい。
その一心で「清水さん」を呼び止めた。
「あの……!」
驚いて振り向いた彼女は、俺を見て固まる。
「え」
「突然、すみません──」
「えっと……『なおえくん』? あの時、部室の前に立ってた、サッカー部の子?」
「……覚えてくれてたんですか」
「もちろん」
たった一度だけ、会話しただけなのに。
しかも、ほんの数分、数秒。
清水さんの声、表情に胸が高鳴る。
向き合うことすら、気恥ずかしくて、堪らない。
それなのに、もっと一緒に居たいと思ってしまった。
そんな俺は、気が付けば口走っていた。