哀しみエンジン
清水さんの横に居る俺を見るなり、服部先輩は目を見開く。
「清水から聞いてたが……直江、お前、本当に来たのか?」
「……ご無沙汰してます」
以前、サッカー部でしていた様に、軽く頭を下げる。
気まずいと言えば、確かに気まずい。
まさか服部先輩に、そんな反応をされるとは、思ってもなかったからだ。
もっと歓迎されるものだと、勝手に思い込んでいた。
「サッカー部は? 今も行ってるのか?」
「行ってません。というか──」
言葉が詰まる。
こんなにも、言いにくいことなのか?
これが。
「辞めます」
服部先輩に続いて、俺も幽霊部員となってからも、今後どうしようかなんて考えたくもなくて、なあなあにしていた。
だが、今、決めた。
だから、今、それを搾り出し、ようやく言えたのだ。
俺の答に、先輩は少し淋しそうにする。
「あんなに、熱心にしていたのに」
「1人だけが熱心にしていたって、仕様が無いじゃないですか」
「お前の実力なら他に行けば、良いところまで行けるだろ」
「いえ」
俺が少しの間も置かずに否定すると、先輩は黙ってしまった。
「上には、上が居ます。キリが無いですよ」
「そうか……」
先輩はそれだけ呟くと、今日の準備に行った。
もしかしたら、ここでは俺の居場所は無いのかもしれない。
先輩にとっては、邪魔なだけなのかもしれない。
サッカー部の時、親切にしてもらっていただけに傷付いた。
そんな様子の俺を、清水さんが眉を下げて、こちらを見ていた。
「服部くん、ね……直江くんが、うちに仮でも来てくれるって話した日から今日まで、ずっとソワソワしてたの」
「え」
「本人も気を遣ってると思うよ。よく言ってたから。『一生懸命な後輩を1人置いて、逃げてきたことに負い目を感じてる』って」