哀しみエンジン
気まずくて、咄嗟に出たのは。
「そんなことより」
そんなことより、って心配してくれた人に対して使っていい言葉じゃない。
失礼だ。
一応、清水さんの顔は笑ってはいるが。
「今日は、いろいろ教えてください」
俺が気を遣わせてしまった、この状況くら抜け出す為に、話題を逸らす。
逸らす、というよりは、純粋な本音なのだが。
とにかく、ぎこちない雰囲気を断ち切りたかった。
清水さんの表情を窺えば、辿々しくも笑顔を作ってくれている。
「私から教えられることがあれば、何でも」
表情は対象から伝わってきて、無意識の内に自分自身もそれに染まる。
俺が、ここまで人に影響されるなんて。
何か珍しいものを見つけた時のように、驚き動けなくなる。
固まった俺に、清水さんはそっと指を差した。
「今、良い顔してるね」
「は……? え……」
戸惑いながら、自身の頬に触れてみた。
何ということだろう。
口の端、頬の筋肉が上がっている。
恥ずかしさを覚えて、周りの景色をまともに見られない。
「さぁ、みんな来るよ」
外からは賑やかな声が、聞こえてくる。
清水さんは先に出入口に向かい、何とも言えなくなる微笑みで、俺に手招きしていた。