哀しみエンジン
「最後に残ったので良いですよ」
「そう?」
清水さんは気に掛けてくれるが、正直どれでも良い。
本当に好きな「もの」があるのなら、俺は瞬時にそれを選べるはずだ。
そういう性分だと、自分でも分かっているから。
そして、俺の言葉にあっさりと清水さん達は、他の人へ配りに行った。
背中を眺めて、離れていく姿に少し淋しくも思ったが、実は他に狙いもある。
しばらくして、飲み物を配り終えた清水さんが、1人戻ってくる。
これを期待していた。
また、俺の所へ戻って来てくれることを。
まさか、1人だとは思っていなかったのだが。
「あれ、椿さんは……」
「友達とお祭り回ってくるって」
そう言って、俺の隣に人1人分くらい空けて座った。
「はい。これが残りました。どうぞ」
「ありがとうございます」
差し出されたスポーツ飲料を、素直に受け取る。
隣に居る清水さんに、何となく気恥ずかしくなり、ただ貰ったそれに目をやっていた。