哀しみエンジン
仮にも先輩である奴等は、機嫌の悪い犬の様に唸り、俺を睨む。
「悔しければ、どうぞ? 何か言い返してください」
「ちょ、ちょっと直江く……」
余計に煽る俺の方に少し寄って、清水さんは不安げな瞳で止めようとしている。
しかし、彼女には悪いが、全くの無意味だ。
なぜなら、苛立ちが少しも抑えられないから。
俺の大事にしてきた「もの」、彼女の大切にしている「もの」を邪魔して、馬鹿にする奴等が疎ましくて仕方が無いから。
ましてや、いつも穏やかな彼女に、こんな顔をさせるなんて。
許せない。
「何も出ないなら、そこ退いてください。邪魔っす」
邪魔だ。
これ以上、一生懸命な人たちの邪魔をしてくれるな。
清水さんに……服部先輩だって。
睨み合っていたが、向こうが先に舌打ちをした。
そして、次の瞬間、腕をこちらに伸ばしてきたかと思うと、俺は突き飛ばされた。
コンクリートに、尻餅をつく。
「生意気、言いやがって! 推薦で入ってきたくせに、ボランティアだかなんだか知らねぇけど、落ちぶれた奴に言われたくねぇわ!」
俺を見下げながら1人が叫ぶと、サッカー部の部室のある方向へ逃げ帰っていく。
それに、お連れの者たちも続いて逃げる。
──落ちぶれるも何も、あんた等に至っては、上に登ろうともしてないだろ。
──今居る「ここ」だって、俺にはサッカーと同じくらい大事にしたい場所だ。