哀しみエンジン
そこまで思い至ると、自身の中で一段落ついたのか、尻餅をついた尻がジンジンと騒いでいるのに、気付く。
全く俺も、不馴れなことをしたもんだ。
正直、面と向かって、喧嘩なんてしたことはない。
俺は今まで、人自体に感心が無かったのだから、当然だ。
感心も無いのに、喧嘩になる訳も無かった。
それなのに、こんなにもムキになってしまったのは、何故だろう。
「直江くん」
優しい声に引っ張られる様に、横に居る人の顔を見る。
「ありがとう」
申し訳無さそうに、そう言う清水さんに胸が何故かしら傷む。
違う、そんな顔をしてほしいんじゃない。
いつもなら癒してくれるはずの彼女の表情が、今はそうではない為か、複雑な気分になる。
「何……?」
しばらく思い悩んでいた俺は、清水さんを見つめ過ぎていたらしい。
彼女がドギマギし始め、ようやく我に帰る。
視線がまた、合わせられない。
「気にしないでください、本当に」
思い出した。
俺がムキになっている理由。
サッカー然り、清水さんのこと然り、俺にとって大切な「もの」を傷付けられそうだと思うからじゃないか。